江戸の時代、齢10の少女がいた。
少女はとある医者と出会い、見初められる。
彼女の家族は断った。
医者は、呪い師だった。
周囲の村から信頼を集めていたが、同時に恐れられていた。
娘をそんな場所にやりたくはなかった。
娘も、男に怯えた。
見目麗しいその男が、怖くて仕方なかった。
男は、まず娘の両親を殺した。
呪い師に目をつけられた彼女達を周囲は助けなかった。
男が娘に手を差しのべた。
「お前らはおそろしいものに目をつけられた。俺が助けてやろう」
嘘とわかっていても、彼女は恐ろしかった。
微笑んだ男が、その明らかな脅しが恐ろしかった。
残った姉と弟を守りたかった。
二年が過ぎた。
その間、男は穏やかに娘に接した。
娘の瞳は冷たいままだった。
三年目、祝言をあげ、体を繋げた。
娘の瞳は冷たいままだった。
男は問いかけた。苦い口調で、喘ぐように。
「なぜお前は、いつまでも態度が変わらぬ。心を開かぬ」
娘は泣いた。
凍えた瞳からしずくを流して、本音を告げた。
「両親を殺した相手に。
今もなお、きょうだいを盾にとる化け物に。どうやって気持ちを向けられるのですか?」
殺されるならそれでよいと、絶望した心地で吐いた本心は、男の瞳を凍らせた。
―――けれど。殺されなかった。
その日から、男は、娘に魔術を行うように指示した。
意味は教えぬまま、数々の冒涜的な儀式を行わせた。
男の目的は分からぬまま、彼女はしたがった。
男の目的は、娘を不死におしあげること。
永遠の孤独を与えること。
男が信仰していた神はイドラ。
長く信仰し、既に多くの呪文を授かっていた。
さらに六年の月日を経て、多くの贄を捧げ。
彼は最後にイドラを呼び出し、女を呪わせた。
「これでお前は死ねぬモノ」
「姿形はそのままに、千年を歩くがいい」
「お前が、お前こそが! 化け物に、なればよい!」
最後の贄は、彼女の育った村をはじめとする、近隣の村を三つ。
死ねない化け物は、こうして生まれ落ちた。
Buchiさん「ロリコンじゃん!」青「ロリコンだよ!」
とあるロリコンの歪んだ執着に人生を弄ばれたかわいそうな女のお話。この時点で肉体年齢19歳。
でも絹さん、この後色々苦労したせいなのか元からなのか。あんまり性格よろしくないよ。
差し出されたのは、赤い花束。
それがすべて菊だと確かめ、美しい女は艶やかに笑う。
「ぼうやにしては良いセンスですね。私がどういうものか、ようやくわかったらしい。そう、私は菊を手向けるに値する存在ですよ」
「ああ。確かに。菊は仏花だな。代表的な」
ぼうやと呼ばれた青年は20の半ばと見受けられる。
ボウヤなど形容される年ではないし、女より明らかに年上に見える。
「だが、それは真実の一面だ。愛を告げる花としてもすぐれていると思うが。そもそも皇族の家紋だろ。どこが不吉なんだ」
「大衆の印象としては、仏花が強いでしょう?」
「ああ。だが元は観賞用として親しまれてきた花だ。死者の慰みになるほど美しいと愛されたともいえる。それに、赤いと」
「なによ」
「赤いとな。花言葉が『あなたを愛しています』だ。
さて。君。今日も俺は君を愛しているが、返事は?」
「100年経っても変わらないわ。私にとって、それは一瞬の出来事だもの。あなたにとっての一生が、私にとっての一瞬よ。…そろそろ理解できないかしら。化け物に思慕を囁くのは愚かでしょう? 本当、物分かりの悪いボウヤね」
「君が化け物だというのも、美しい女性だというのも。同時に存在する真実だと思うんだが。菊と同じだ。大衆のイメージがどうであれ、俺は見たい局面を見る」
「夢美がちなぼうやね。本当に」
「俺の夢は、君の死に顔を見とることだ」
「………。……そう」
快活に笑う青年に、女はそっと目を伏せる。
長い睫毛が震える様を、青年はじっと見ていた。
そんなやり取りを、幾度も繰り返した。
幾度も、幾年も繰り返したある日―――彼女は不意に、ボロリと泣いた。
「…もう、来ないでください」
「そんな顔で頼まれても。…寂しいと言われているようだ」
「ええ、そうかもしれない。化け物に話しかけてくれるだけで、楽しい気分にはなってしまう。…だから、ねえ。…やめてくださいまし。私は…あなたと共に生きれません」
「…まだ分からないだろう」
「飢え死にはできませんでした。高所から飛び降りた時は、痛みに苦しむうちに気づいたら元に戻っていた。海に落ちたこともあるけれど、どうやらとっさに岸を目指してしまったらしく…流れつきました。毒を煽ったこともある。火をつけたこともある。でも苦しくて、それだけなの。…ねえ、あなたといると、それより苦しいのです。だから…どうか、許してください」
「…それはすべて、君が一人で試したものだろう」
「ええ。そうですね」
ポロリ、ポロリと。
涙を流す女に、青年と呼ぶのは不似合いになってきた男は苦笑する。
「なあ、絹。観念してくれ。…なあ、頼むから。俺と一緒にいてくれ」
苦笑して、抱き寄せられれて。
死ねない生き物は、彼の胸を涙で濡らす。
死ねない―――けれど力強い腕を振り払う力すらない、哀れな女は。
300年分泣いて、泣いて、それでも枯れもしない喉から声を紡ぎ出す。
「……死に際に」
「……は?」
「私が死ねるなら。…その時に、死に際に口付けくらいはさしあげる。……本当に、愚かな……、…可愛い人ね。保は」
「……ああ。そうだな。愛とは共に愚かになることらしいぞ」
「……あなたのそのきざったらしい言葉は……どこから仕入れてくるの……?」
「飽きられぬように、色々とがんばった」
「……そうなの。……頑張り屋さんね」
20年前からひっこんでいることとかは本当ですが、二人の出会いは口からでまかせなので昔の話を書いてみた。たぶんセッションごとに馴れ初め(嘘)変わるよ。初回の人類学が暴いた保さんが精神的にMだというのは面白いのでずっと使いづつけますが! 絹さんが違和感感じて欲しくて適当言ってる。心理学成功で:嘘を感じる。失敗で:愛しか感じない。二人があったのは保が10代の頃です。それからずっと追いかけて追いかけて追い詰めて手に入れた。ちなみにあの屋敷は絹さんの持ち家です。
あとたった一つの〜の表紙の花は赤い菊です。どっかでタイトル回収したかったけどできなかった。
絹の体質については色々不死系重ねで途中までルルブ準拠なのですが。最終的にはイドラによって「色んな細胞・遺伝子を混ぜ和せられた人型の化け物」です。オリジナルエネミーです。HPは200想定。生贄に捧げられたのがそのくらいの人数を想定しているから。
回復能力も付加されていますが、痛覚はそのまま。死ぬまで炎上していれば実は死ねますが、一人ではできずに途中で火を消せてしまいました。溺れるのも火も同じようなものです。毒については自然界のものは耐性があったと思われます。
保が心折れずに死ぬまで殺し続ければどうにかなったでしょうが。同じ現象なのでSANチェック慣れルールの対象でしょうが。正気をもって、彼は殺しきれませんでした。SAN的な狂気ではなく、理性と欲望で彼はああいった方法に手を染めました。
探索者が望むなら、彼女を殺しきれるでしょう。基本的に抵抗はしません。途中苦しみもがきますが、抵抗する力はその時ないわけだから。殺す時は慣れルールがあるから、1d8をコストに好きに描写してもらう予定でした。