ふるふわカメラマンのゆるゆる過去話

 幼いころから、なんとなく違和感があった。
 家は裕福で、愛情深くもあった。あたたかい家庭だったと言えるだろう。  でも。だからこそ。
 少しずつ違和感があった。
 俺はそんなに立派じゃないし、期待に応えることもできない。
 でも。

 でもそれを言うこともできずに、大きくなった。
 大きくなって、家業を継ぐことを求められた。小さな貿易商。
 小さいけれど、貿易商は貿易商だ。…俺のやりたいこととはあまりにかけ離れていた。
 だから家を出た。

 家を出て、大学に行き。…作ったツテは結局家を由来するものだったが。カメラマンとしてやっていけることになった。
 そうして、ささやかに暮らしてきた。
 ささやかに暮らすうち…。ふとむなしくなった。

 僕の才能はここまでだ。
 悪くはない。食っていける。クライアントの要望に応えることができる。

 それでも、そう。お題がなければ僕はそこそこ止まりだ。
 そのことが、とてもむなしくなった。
 写真を撮る楽しさはある。
 人に認められる喜びもある。

 ただ。僕の要望とはなんだろう。
 僕のしたいことは、本当は何なのだろうと…。少しだけ。
 少しだけ、そんなことを思う時がある。

「…贅沢な感傷だけどな」
 呟いて、小さく笑う。
 カシャリ。
 切り取った光景は、やはり少しだけ物足りなかった。

成り行き上スランプに襲われてたので、こういうスランプだったということにしました。
須賀埼君は主に人物の写真(記念写真)とかで生計立てる人。
でも風景写真の方が好き。いつか風景だけで食っていけるといいね。

それは一夜の儚い夢

 おかしな子供とおかしな祭りをめぐった記憶がある。
 おかしな子供に「今度一緒にいなりずしでも」とトチ狂ったことを言った覚えも。

 その子供に、住所を教えた覚えも。
 その割に名乗らなかった覚えも、しっかりとあった。

***

 カシャリとシャッターを押す。
 仕事でも、売り込みでもない。単にスマホで撮った夜空の写真。

 そういえば、昔はこうやって自分のために写真を撮るのが好きだった。
 最近はしていなかったが。

 カシャリ、写しとったのは白い花。
 デキはよくない。人に見せるレベルではない。
 ただ、少し胸が弾む。

 …そういうことが、先日からたまにある。

 おかしな子供と、おかしな祭りを歩いた。
 ワケのわからないことを言われ、帰ってきた。

 …彼に名乗らなかったことに気づいたのは、帰ってきてすぐだ。
 同時に気づいたことが一つ。
 ああ、こちらに関心がなかったのだなということ。

 こちらは名前を聞いた。
 けれど聞き返されることはなかった。


 まあ、その程度の関心だったのだろう。
 あるいは、その程度に警戒されていたのか。

 どちらでもいいことだ。
 いいこと、なんだけど。

 ふじの、と何度も聞いた声が、ふとよみがえる。
 嬉し気に弾んだ声だった。
 親でもない、血のつながりはない、友人でも、恋人でもない相手だと。
 …ならば、なぜ。

 ならばなぜ、あのおかしな子供は、他人にそんなに大きな感情を抱けるのだろう、と。
 たまに思い出して、ふと足が止まる。

 止まるけれど、それだけなのだろう。
 アレが本当にあったことなのか怪しい。
 本当にあったことだとしても―――…
 きっと、もう、会うことはないだろうから。


 カシャリ。
 次に写し取ったのは、少し欠けた月。

 もう会うこともない、一夜の幻だろうけれど。
 こうしてのんびりとすごす契機にはなったのだ、感謝をしておこう。

 美しい夢だったと、そう思っておこう。

思い出すたびにあのガンガンあがる好感度と刻んでいく木葉君が爆笑もの。
木葉君の成長を見た気がして私はとてもうれしかったです、警戒心…警戒心がうまれた…木葉君に…!と。
 2020/05/10
 目次