「つい調子に乗った。だってかわいいんだ」
プロポーズというか再会を済ませた時、残念ながら高校生だった。
いや、思いのほか早く見つかったという意味では残念ではないけど。
まだ親の世話になっている身分だったのは残念だ。
まだ、というか。今もだ。
『大学は今しか…ってわけでもないけど。今入った方がいいだろ』
『お前が元から就職するつもりだったなら、そりゃいいけど。やめるなよ。女を理由に。やろうとしてたこと』
『俺はんなことのためにお前引き取ったわけじゃないからな』
まあ、そんなわけで現在大学生だ。
進学先が遠かったので、家は出たけど。
家はでたし。連れ込んでるけど。
まあ、連れ込んでいることについてアレコレ言われる筋合いはない。恥ずかしい成績とってないし。貢いでるわけじゃないし。大学生なんてそんなものだと思う。
第一、昔散々辛抱した。結局本人を傷つける辛抱だった気がしなくもないが。ならば今度は間違わない。今度こそ間違わない。日本には三度目の正直というすばらしい言葉あることだし。
ということで、目の前の恋人ににっこりと笑いかける。
「媚薬にね、なるらしいんですよ。炭酸」
「え?」
ようやく再会した恋人は、不思議そうな声を上げてコップをまじましとみる。
「炭酸が、媚薬に。口移しするとなるらしいんですよ」
「…そっかぁ」
じりっと一歩下がられた。誘うのは平気なのに迫られるとうろたえるよな、この人。俺のせいなのかな。心当たりは割とあるけど。
昔から頑丈で今はなお頑丈で、それでもリーチがない人なのでちょっと手を伸ばすだけで届いた。
テーブルがちょっと邪魔だけど。
「試したいなと思って」
「…ええ…?」
「駄目ですか…?」
「……」
口がへの字に曲がる。視線がさまよう。
さまよったところで8畳ひとまなんて簡単に一周するだけだろうに。あなた、その微妙な往生際の悪さはなんですか。
やっぱりすぐに一周して、戻ってきた。
もどってきて、小さく「いいよ」という声が実にいじましい。ついでに、年下に甘い。甘すぎる。
…うん、18歳も悪くないものだな。そういう意味では。
隣に座って、こくりと炭酸を口に含む。
顎を上向かせて口移しをすれば、びくりと震えられた。おびえられてるようで微妙な気持ちになる。まあ、いいか。
一度体を話して、もう一度同じように。繰り返すこと数回、コップ分の炭酸がなくなるころには、あちらは完璧に息があがっていた。
大きく上下する肩もとろりとした目と赤くなった頬も、とても目に毒だ。
……ここまで従順だと心配になる。もう心配するような人ではなくなってしまったけれど。危なっかしいお嬢さんでは、なくなってしまったけど。
かぶりをふって感傷を終える。唇からこぼれたジュースを指でぬぐう。ふと思いついて同じところを舌でぬぐうと、恥ずかし気なうめき声が聞こえた。
「どうですか、なってます? 媚薬」
「わかんない…」
「そうですか」
何言っているんですか。あるわけないでしょう。スーパーで半額に値下げされてたジュースに、そんなドラックみたいな効果。
言葉の代わりに、タートルネックの下へ手をすべりこませる。
お腹を軽く撫でてブラの縁も撫でる。胸の谷間で指を滑らせると、びくりと大きく震えた。…かわいいなぁ。まだなにもしてないのに。
「ご自分でわからないなら、仕方ない。気になるから確かめてもいいですよね?」
こくん、と素直に頷かれる。
ちらりと見えた耳が赤いのは、気づかないフリをしておいた。
***
ぐったりとゆであがった体をベッドにあげると、抵抗されない。
ズボンを脱がそうとすると一瞬固まられたけれど、抵抗はされない。下着を脱がせても同じだ。
隠すかのように伸びた手は、片手で抑え込める。
かつてならともかく、今なら全力で暴れれば簡単に抜けれるのだろう。とはいえ、全力で暴れられると多分怪我をする。打ちどころが悪けりゃ死ぬ。彼女はそういうものだし、俺はそういうものだ。
そう、だから。隠そうとか恥じらおうとかいう気が起きない程度に頑張らないと逆に可哀そうかな、と思う。
だから媚薬なんて囁いてみましたが。
「……」
「なにか、変……?」
「変ではないですけど」
「けどってなに……ずっと見られてるの、恥ずかしい………」
寝がえり打たれそうになったので、腰を抑える。
見られるの恥ずかしいと言われても、見るだろ。まさかここまで効果があると思わなかった。本当素直なヒトだな。
すでに赤く膨れた部分に触れると、ひゅうと息をのむ声が聞こえる。濡れた部分から滴るものがシーツを濡らす。
なおも滴る分は、もったいないので指に塗り込んで押し戻した。
「あ、…っぅん…」
もれかけた声が彼女自身の手でつぶれる。
何度しても恥じらうのは乙女心というやつなんだろう。乙女じゃないからわからないけど。
濡れた部分を指で開けば、バタバタと足は暴れる。
探りなれた場所のひときわ暴れられる場所を押せば、一度大きく震えて、くたりと力が抜けた。
「…さすがにはやすぎません?」
「え…だって…」
だっての先は言えないらしい。本当に、何年もたったのに初心なことだ。
いつもマイペースそのものの顔が、指一本でこんなにも変わる。
面白い。いじめたい。おかしいな、あんなに優しくしたいと思ったのに。
とん、とさきほどと同じ場所を押せばひゅうと喉が鳴る。
少し休んでから改めて押せば、がくがくと体が震える。とぎれとぎれにもれる声が、大変耳に心地よい。
「……思うに、宣言しなきゃ効果なんてないと思うんですよね」
「…さっきのジュースのこと?」
「そういう効果がありますよと言って、そういう効果があると期待するから興奮する。
要はそれだけの話だと思いますよ。プラシーボ効果」
「それをうちに言う…?」
「そうですね。医者に解説するまでもありませんね」
抜いた指を見せつけるとさらに赤くなられた。
人体はここまで赤くなるのか。すごい、可能性を見ている気がする。
「純枝さんは素直ですね。素直に期待してこんなに反応してくれる、と」
「期待って…」
「してくれなかったんですか?」
「…したけど!」
「期待されると応えたくなりますよね!」
「…っ、じゃあ、わざわざ、言わなくても…!」
「恥ずかしがる顔がかわいくてつい」
ぽんと効果音がつきそうなほどに頬が染まる。
ああ、本当に、かわいいヒトだ。
どうかしてしまう程度に、かわいいお嬢さんだ。いつまでも。
ツイッターで流れてきた時期ネタにのっかる話。めたぁ。な感じ。そして好きな子をいじめたい話。
なんというか乙女系的な羞恥プレイをはじめそうで私は大変恥ずかしい。書くけど。書きたいから。
目次
この感情の名を知らない話
脱がれば脱がせるほど驚いた。
顔にあるんだ、相当なヤケドだと思っていたけど。まさか半身を覆っているとは思わなかった。なぜこれで歩ける。
いや、これだけヤケドをおった人間が、よく生きているものだ。感心する。違うな、感動する。
歩いているのも、発声も。
運もあるだろうが、さぞや努力したのだろう。
「電気、消して欲しい」
「…」
まあ、当人にとってはその見た目がネックだろうと、予想はつく。
電気くらい消すか。
ただ、まあ。
…俺わりと夜目ききますがね、職業ガラ。
言わない代わりに、頭を撫でる。不思議そうに見られた。
「…気持ち悪くないの?」
「…気持ち悪くは無いですよ」
痛ましいと思うし。興奮するかしないかで聞かれたら萎えるけど。
その顔見てるとお釣りがくる。
なんだろう。こびられたりおびえられたり、嫌いなのにな。なんでこの人のは気分がいいんだろう。
不安そうだけど、媚びてもおびえてもいないからだろうか。勧められた酒がやたらとうまかったからだろうか。
ふわふわととてもいい気分で、たまらなくうまそうに見える。
頭を止めて頬を撫でる。なんか知らないが逃げられたので、両足の間に挟んでおく。リーチは短いよな、この人。
なのに往生際が悪いなぁ。くすぐったいだけかもしれないけど。
しばらく待っても抵抗はされなかったから、いいだろう。
思いの外大きな胸を包むと、眉がよる。悩ましげに。
痛くはなさそうだ。それにやっぱり、うまそうだ。
唇で食んだ先端が柔らかい。吸って転がせば、徐々に固くなる。
演技だろうかと思うほどに跳ねる手足と相まって、なんだろう。おもしろい。いや、いい気になってるって言うのか。こういうのは。
「これ位でこんなになってたら大変ですよ」
悔しそうな顔をされた。
何か言おうとしているようだけど、ちっとも声になっていない。
…無理して喋らなくても、やめてほしいなら泣けばいいし。怖いと言われればやめるのに。
そんな顔されてもなあ。このままでいいとしか思えない。
パンツに手をかければびくりと震えられた。
「…濡れてる」
「っ!」
濡れた場所は冷たくて、探った中はあたたかい。…実に従順だ。
…胸いじってる時も思ったけど。半身がコレで、よく神経残ってるな。いや、残ってる部分が変に敏感なのかな。
こんだけ怪我して生きてる人間みたことないしな。さすがにそのあたり、わからない。…ただ、本当に運がいい。
運がいいし、感度がいい。
これまで前戯に長けてるとか評された覚えはない。本人の素養だろう。
ああ、でも濡れてるにしてもこんな低身長相手にしたことないな。大丈夫かな。怪我はしそうにないけど、痛がらせるのはなぁ。なんだか、それはすごく嫌だ。
ためらっていると。ギシリとベッドが大きく鳴った。別に俺は跳ねてない。
大きくはねた女性は、目が合うと少しだけ視線を逸らす。
先ほどと同じ場所を軽く押す。軽くとは思えないリアクションが返ってきた。
「や、あっ!」
「嫌じゃないでしょう」
これで嫌だったりダメならやめた方がいい。
でもやめる自信ないな。すごく興奮する。
触れれば触れるだけ濡れてくるのは、悪い気分じゃない。
そう、悪い気分ではないが……
……ちょっとよすぎませんかね、御厨さん。
「…御厨さん」
挿れたら泣かれるかもとは思ったが、失神されるとは。
…というか、処女だとは。
……あんだけ濡れて喘ぐ相手が処女だとは思わなかった。
軽く誘われた時点で確認を怠ったのも悪かったけど。…別に処女じゃなきゃ手を出していいということは断じてないけど。
成人したウワバミなのを知っていても、子供みたいなサイズもあいまって…正直痛々しい。ヤケドの跡より、よっぽど。
「みーくーりーやーさーん」
たたいてみた。…ビクともしない。これは起きないのかもしれない。
とりあえず抜くか。気を失った相手にこれ以上はダメだろ
「……」
頭がガンガンする。なにしろ酒を山ほど飲んだ。
…他の理由があるのは、考えたくない。
あと股関も痛い。なにしろ中途半端だ。
シャワー浴びて適当に処理して、でもいいけれど。というかそうじゃなきゃNGだけど。
……でも手くらいならよくないか。
そのくらいセーフじゃないか? 起きないだろうし。
シーツを握り締めたままの手を、そっと引きはがす。
やっぱり起きないし、なんというか。
その小ささに、なんだか少し泣きたい気がした。
***
「え、ええ…」
困り果てた声で目が覚めた、
うろたえまくった、身じろぎする音が聞こえる。あと寒い。
なにもかけてないし、何も着ていない。うわあ。マジか。
ちらりと声の主を見る。
その後ろの壁とか、部屋の内装もみる。ゴミ箱も見た。
ああ。どうみてもラブホだ。すごく、ラブホだ。記憶もうっすらと戻ってくる。
うんうんうめいている相手が、どれだけ覚えているかは怪しいけど。
色々なことを考えた。
目を閉じると、走馬灯よろしくこれまでの人生とかも流れた。よし、いい感じに陰鬱な気持ちになった。
冷静になってみる彼女は、やっぱ下を向いてうめいている、俺もうめきたい。頭も抱えたい。
…でも、もうやってしまったことは消えないし。ごまかしようもないだろうし。
「おいで」
悩み果てて布団を叩くと、思いの外素直に隣に横になられた。
ということは俺は笑えてしまったんだろう。状況鑑みるに割と最悪な男な気がする。
ふわふわとした頭を撫でる。
そんな場合じゃないというのに、なんとなく落ち着く。いや、落ち着いてる場合じゃない気も、するんだけど。
ほんの少し身が寄せられる。
やがて聞こえてくる寝息に、ふと思った。
夢落ちならお互いのためだったのだろうけど、と。
日本を経つのは明日。
ここ数年依頼を受けていたとある貿易商は、しばらくアメリカに帰る。アジア圏での活動を任せられる人材を見つけたとのことだ。だから、契約内容が変わる。俺の仕事の内容も変わる。
実家がこちらなのは変わらないが―――…もう彼女に会うことは、たぶん。
最後だと告げる気など、なかったのにな。
たぶんこれ、酔った勢いもあるけど、ここまで深酒した理由が双方「さみしい」っぽいよなみたいなIF時空。
「しばらくこっちに来ないけど、就職頑張ってくださいね」「そっか。…気をつけてね」「あはあ。それはもちろん」みたいに紛争地域渡る前夜っぽいよね。
そして数年後立派に国境なき医師団に成長した御厨さんに会う、と…。そのあとセフレだったり抱き枕だったりきちんと付き合ったり死んだり死んだり失踪したりする、と…
…やっぱりろくな状態じゃないね中東IF!
目次
一度お兄さんに殴られた方がいいと思う
非番だから休もう思った。休もうというか、町行こう。特に何かをする当てはないけど、ゆっくりしないと。そう思った。
そう思っていたんだけどさ。
「やっほー、りゅーや君」
なぜここにいるんだ。
…ここが診療所だからだ。
一か月前に後方に移動すると聞いたけど。まあ、いるのはあおかしくない。同僚のところに尋ねてきたんだろう。
うん、それはいいんですけどね。やっほーって。
…こういうこと言うってことは、あっちも休暇なんだろうな。こちらで再会して初めて知ったが、彼女はキチンと公私の区別をつける。
でも、やっほーって。
めちゃくちゃ怪訝そうに見てますよ、あなたの同僚。いつもあなたどんな態度で同僚に接してるんですか。
そんなことしてるから勘繰られるんでしょうに。
『おやすみ?』
『…ええ、そうですね』
『そっか。じゃあ、遊ばない? うちも今日休みだから。みんなで乗ってきた車、まだ一人くらい乗れるし』
『……』
彼女の口からキレイに流れる英語に、いつも一瞬頭が痛くなる。言うべき言葉を、少しだけ探してしまう。
そうですね。せっかくそこそこ安全な場所にいるんだ。つぶれないように休日を外で過ごすのは有意義ですね。
その前に休暇組で現場に差し入れするのも、別にいいと思うんですよ。
でも視線が痛い。
あなたの同僚たちの視線が痛い。
いや、痛くない。くすぐったい。なんだ、その微笑ましげな視線。どういう関係だと思われてるんだ。ただの友人だよ。
…とは言えないな。
「…まあ、街中でも護衛はいるに越したことはありませんからね」
溜息をまぜて答えると、彼女はにっこりと笑う。にっこりというよりは、一瞬だけ朗らかになる。
彼女の隣の同僚が信じられない顔をした。
…いや、本当、あなた職場でどういう態度なんでしょうね?
***
本当、同僚の前ではどういう態度でいるんでしょうね。
俺が知るあなたは、今とあまり変わりがなかった。
もう少し朗らかだった気はするけど。もう少し―――町を歩いて、すれ違う子供を見て悲しそうな顔をするなんてことも、なかった気がするんだけど。
おおよそ一か月前に、彼女が後方に移ったと聞いた。…尋ねた。…うん、勘繰られている理由は彼女の態度だけじゃないよな。俺も意味ありげな行動をしてる。でも友人としてそっとしておいてほしいものだ。
あの日、地雷踏んだ車があったものだから。燃えて、ずいぶんと被害が大きかったから。子供なんてそりゃあひどいありさまだったそうだから。
その車自体は俺の仕事の対象じゃなかったけど。あそこに支援物資を送っている人たちの一部の護衛だったから。
だから、阿鼻叫喚の中で彼女をちらりと見たものだから。
だから尋ねたし、気になった。…今日付き合った理由もそれだ。
…心配だったから。
「や、あ、あ…あ!」
心配していた相手に手を出すってどうなんだろうな、
弱っている女性に漬け込むのってどうなんだって話だよな。
誘われはしたけど、考えるまでもなく最悪だよな。
「い、だ、ダメだから! あ…いっ、いやっ」
「…じゃあ離してくださいよ。…腰割と痛いんですよ、今」
「だって、…ふか、ぁ…あ…」
「深くなるような恰好してるのは、あなたでしょ。足絡めてるのも、動いてるのも、人のモン締めてるのも、あなたですよ。…、っ…こういうの言われると気持ちいいでしたっけ? …ほら、また。だか、ら…そんなにしがみつくと余計にはいりますよ」
「…っ、…ぅ…う…」
借りた宿のベッドがきしむ。
苦しそうな息が耳元で聞こえる。間近で見る目からポロポロ涙がこぼれる。
…泣きたいならもっと素直に泣きついてくれればいいのに。そうしたら、友人の距離でやさしくできるとのに。
ただなあ。一度目は事故でも通るが、二度目はお互い意思があった。好きとも嫌いとも惚れたとも晴れたとも言わなかったけれど。
ヤったのは片手の指で足りると言っても、友人としては不適切な距離になったものだ。とはいえ、付き合ってるならセックスレスだけど。ああ、じゃあセフレか。…この人に似合わない響きだ。
子供を見たら親切に手を差し伸べる人だった。家畜や害獣すら殺す時に眉をしかめた。……こんなところにいるのも似合わない。
せわしく開け閉めされる唇をふさいで、びくびく跳ねる体をつぶす。足が余計に絡んで来る。なんだか気の毒だ。ヤダヤダ言ってるのにな。
本人にその気なんてないだろうに、搾り取られてるようだ。絞り出されたところで中には出ないけど。
…ああ、でも孕んだらこの女は日本に帰るだろうな。それは、少し。……だまし討ちでんなことしたら鬼畜だし、俺が父では子供もこの人も気の毒だからしないけど。
舌で軽く歯茎をなぞる。小さな悲鳴と一緒に、腰にからんでた足が落ちる。ぐったりと力が抜けてる。
…え、もう少しだったんだけど。
……まあいいか。あとは自分で始末すれば。
しかし本当感じやすいなこの人。日々どうやって過ごしているんだ。
少し心配になりながら離れる。
背中を向けたら、がしっと腹のあたりをつかまれた。
…その細腕のどこから出てくるんですか、その力。立てない。
「御厨さん、なんですか」
「…って、ない」
「は?」
「…りゅーや君、イってない…」
「そんなの気にする余裕あったんですね」
「……そういうのダメだと思う」
「はあ、そういうのというと?」
黙られた。
なぜこのタイミングで黙るのか。あ、違う。そうか。気を遣ってくれたのか。
辛いはつらいけど。どちらかというと今引き留められてるほうが辛い。数秒で終わるからほっといてほしい。みられながらすけというのか。違うんだろうけど。
……こちらこそ、気遣ってやめてるのに。そういうことをしないでほしい。
「……なんで今更この程度で照れるんですか」
「…この程度かな」
「この程度でしょ。要はまだ続けても大丈夫だと、それだけのことでしょう。
ここ連れてきたのも、ちょっと触られた程度でドロドロになったのも、ナカ出してくださいと言わんばかりにしがみついてきたのもあなたですし。
そんなにイキたりません?」
「…いじわる」
「心外ですね。やさしくしてるでしょう」
「…やさしいかもしれないけど」
何言ってるんるんですか。あなたは。
優しいことなんて言ってない。心配なること言わないでほしい。
誘われて拒まなかったのは俺だし。ちょっとというか一生懸命ほぐしたし、いれたし。
散々その気で好き勝手しておいて、女性だけの所為だけにしてるんだから、とてもひどいことを言っているの間違いだ。客観的に見て割と最低だ。
…そんな奴じゃなくて、他の相手を頼った方がいいと思いますよ。できれば人手足りなくて小さいのから死んでいくような、こんな場所じゃないところで。キチンと大事にしてくれる人を探したほうがいいと思う。
なのにどんな顔してそんなこと言ってるんですか。
腕が緩んだので振り向く。
真っ赤になってそっぽむいてた。
…手を出してしまうまで、この人がこんな顔をすると思わなかった。
ただのかわいい女の子みたいだ。
安全とは言え市街一人で歩かせるわけにはいかない日本の女の子だ。
…もう立派にお医者さんだから、子って年じゃないか。
「けど、なんですか」
「けど、恥ずかしいこと言わせようとしてない…?」
「…嫌か嫌じゃないか聞きたいだけですよ。ほら、日本語が不自由なもので」
「ええー…?」
「興奮するとうまくしゃべれなくなるんですよ、最近はあなた以外に使わないし」
「え、興奮してるんだ?」
「……、嬉しそうな顔しないでくださいよ」
勘違いしそうになるでしょう。
あなたに好かれてるとか、付き合ってるとか。
勘違いしてるのはあなたもだ。
たまたまヤケド跡にひかなかった異性が自分だっただけだろう。
好きじゃなくてもこのくらいできてしまうから。弱ってるところ漬け込まれて、いいように扱われてるんだから。怒って距離おくべきなんですってば。
言うべき言葉が上手く出てこない。
…できれば、恨まれないままで自然消滅したいのかもしれない。その程度には好きなんだろう。俺ではその程度にしかなれないけど。
それでもたぶん、決定打を言いたくない。扱い雑だから離れていく程度にしたい。
「……イク姿で興奮されてそんなに嬉しいんですか。やらしいな。さすが、息も絶え絶えのクセに引き留めるほど物足りない人は、違いますね」
「……だからそういうところだよ?」
知ってる。
あなたに言わないだけで、認めないだけで。
言う代わりに手を伸ばす。首筋を軽く舐める。さらに真っ赤になるあたり、本当どうなんだ、あなた。
趣味もあるけど。だから言いたくなるんじゃないか。他にこんな芝居がかったこと言ったことないし。
***
「…ふ…っ」
「逃げないでくださいよ、したいっていったでしょ」
「あっ!?」
向かい合わせで抱えて、座位でいれる。
立とうとしているようだけれども、立ててない。…抱えると普通の体重なんだけどなぁ、なんであんなに馬鹿力なんだろう。不思議だ。
「やだ…はいってくる…!」
「イって、ないの、可愛そうだから付き合ってくれるんでしょ。ついでに、頑張って動いてください、よ」
「う…あ、んん、ん…」
首に手が回される。わずかに動こうとしてくれてるのはわかる。
わざわざ頑張らなくてもいいのに。とても良い光景だし、普通にこのままで気持ちいい。なにしろイキかけてたし。むしろ我慢してるのに。
こんなことに健気にならなくてもいいのに。他のことを頑張った方がいい。いっそ自分の同僚でこういうことするの探すとか。
俺の会社の同僚だけはやめてほしい。いろんな意味で。…マトモな男とっとと捕まえてほしい。マトモに大事にしてくれるなら女でもいい。ニューハーフでもいい。
「ん、…りゅーやくん」
「…なに」
「……気持ち、いい……?」
「……っ、は、い」
どちらかといえば無表情の、なにをかんがえているかわからない人だった。
とろけきった顔を、こうなって初めて知った。知りたくなかった。
守らなければと思っていた。それは人に助けられて生き永らえた自分の義務だから。
だって、会ったころはただの大学生で、年下の女の子で。ふらふらと、少し腕力が強い程度のことで、危ないことをするから。
守りたいなどと思いたくなかった。
もう二度と、そんな思いになりたくなかった。
落ちそうになる体を支える。
頑張る気力が尽きでもしたのか、されるがままだ。首に回った腕だけに少し力がこもった。
「気持ち、いいですよ。あったかいし。どこもかしこもぐったりしてるのに、中だけすごい動いてる。吸われてる気がする。ねえ、今肩なり尻なり押し付けたら一番奥まで入りそうですけど。…いい?」
「だめ、ん…んー!」
ぶんぶんと首を振るたび、髪が首を撫でる。肩にぱたぱた落ちてくるのが汗か涙かは抱き合ってるせいで見えない。
肩のあたりがわずかにひっかかれた気がした。
短く、衛生的に整えられた爪はそれ以上傷をつけないけれど。少しくすぐったいだけだけど。
とぎれとぎれにあがる声も、耳にあたってくすぐったい。
くすぐったいし、気持ちがいいからだろう。
射精しながら、少し視界がにじんだ気もした。
諸々から派生したお兄さんに2、30発殴られた方がいい中東IF.中東までくっつかなかった時点で6割死に別れか分かれるかのルートなんだろうな、って。
過剰に反応して面白いな―、と思ってる。かわいいと思ってたのは大概死に際に気づく。もしくは死んでも気づかない。そんなマンボウみたいな男。
会いに来たと言われても半分くらいしか信じてないし。大事になればなるほど「早くおうち帰ってほしい…」「目の前で死なれたら立ち直れない…」とへこむくそ面倒くさい男でもあるしとりあえず守ってほしいと一言も言われていないことをとっとと気づけばいいと思います。カウンセラーと患者みたいな関係になっておいて図々しいと思います。何外科医にカウンセラーさせてるんだ…!
これだけアレな扱いしといて「嫌い」「迷惑」とかのウソはつけないし、これだけ手を出していても幸せにする自信がなくて逃げる気満々な話ともいう。殴られればいいのに。
ちなみに彼の母国語は英語なわけで。成人してからは英語の方が長いわけなので頑張ってるんだろーなーってあれですよね。
小学校時代はカウンセリング中だけど、中高は日本のに通ってたし。通ってる頃はそれなりに友達いたし。アダルト系の日本語すらすら出てくるだろうけど。それでも海外いる時は外国語モード入ってるから頑張ってる。頑張って日本語喋ってる。ただただ御厨さん恥ずかしがらせたいためだけに。そういう趣味だよ! これでも我慢してるんじゃね?
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