・エロくはないけど痛々しい話です。真さんはSAN値以外スパダリ。
「…真さん」
「なあに?」
「…離れてくれないと、その、ごはん食べれませんよ?」
「うん。でも、守っておかないと」
「な、なにから」
「全部」
とろけるような顔で、愛する人が笑う。
「全部から、守らなきゃ。だって凛良さんは俺の神様だからね」
私はあなたの恋人だったと思うのだけれど。
…とある一件以来、彼はこうだ。
……なによりも救いようがないのは、そう。
このありさまに引くどころか。抱きしめられてその体温に頭がのぼせている私なんだろう、きっと。
「あのね、真さん」
「うん」
「でも、食べなきゃ体壊しますよ」
この人はスポーツ選手なのだから、それはよくない。許されない。
「でも、離れたくないし」
ぎゅう、と抱きしめてくる腕が強くなる。
痛いほどに。苦しいほどに。
でもちっとも、不快ではない。
「…じゃあ、仕方ないですね」
「うん、そうだよ?」
「でも、手だけ動かしていい?」
「うん、凛良さんのいうことだからね」
言葉通りに、腕の力が緩む。
私は、せめて食べやすいようにと用意したサンドイッチをつかむ。
「真さん、口あけて?」
「ん?」
言われるままに口をあける姿は、餌をねだる鳥かなにかのようだな、と思った。
思い、サンドイッチを咀嚼し、そのまま口づける。
抵抗はない。
そのまま繰り返す。
抵抗はなく、ただ、くすくすと笑う声が耳朶に響く。
「…ごちそうさま」
「……そういうのは、ちゃんと言えるんですね……」
実は正気なのだろうか。
…正気とか、狂気とか。最近、どうにも…どうでもよくなって、いるんだけど。
「だって、お礼はいわなきゃいけないし。あいさつは大事だよ?」
「もっと大事なこと、たくさんありますよ?」
「なに?」
「なに、って…色々…」
「俺は、凛良さんといる以上に大事なこと、ないよ?」
ああ、口元がゆるむ。
正気じゃないのは。一体どちらなのだろう。
再び抱きしめられて、口づけが下りてくる。
口移した食べ物の味が消えるまで、ふやけるように。
深い、深いそれに、呼吸の仕方はあいまいにとけた。
みたいな生活してそうじゃないですか? この二人。
2019/02/01
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