描写ぬるいけどR18です

とろけるように甘いお話

 一つ作品を完成させて、ベッド(というよりはそのあたり)に沈んだのは覚えてる。
 二日ほど集中して寝食などをおろそかにしたことも覚えている。
 なにしろそういったことを気にする夫が不在だったからこもっていた。
 こもって―――……
 ………。

 ふわふわとした感覚でうっすらと目が覚めた。
 体全体にあたかいお湯をかけられているのがわかる。
 髪をとかされて、お湯で流される。
 目は冷めているけれど、そのまま眠りに落ちていきそうな、そんな感覚。

「慧、」

 徹夜明けに慣れた名前を呼びかけて、気づく。
 違う。そんなわけがない。
 確かに作品作りにうちこみすぎて寝落ちした時、巴を起こすのは長年彼女の電話だったが。
 彼女の『電話』だ。
 あの親友に自分の部屋の惨状をみせたことはない。体調を崩している姿も、だ。
 なにしろそんなものを見せたら彼女はしょんぼりと泣きそうな顔で眉を寄せて落ち込んでこちらの心配ばかりしてくるものだから大丈夫だって言っているのにああ慧香はかわいいなぁ癒される。

 …と。
 現実逃避を含めた思考から冷めて、彼女はゆっくりと目を開ける。
 なぜ現実逃避をする必要があったのか。
 それはとてもシンプルだ。

 さすがに彼女に風呂にいれられたことはない。
 なにより、荒れ果てた部屋を見せたのも、弱った姿を見せたのも、こんなにも触れるのを許したのも、たった一人だ。

「…おはようございます」

 寝起きの耳に、そのたった一人の声がした。

 広い湯舟の中で妻の座椅子を勤めつつシャンプーをしていた夫のつぶやきは低い。
 低さの中ににじむ不機嫌の色に、妻はつつっと目をそらす。

「………おはよう。ところで棗君、出張、明日までじゃなかったの…?」
「それが今日です。あなたは一日寝ていたということになる
「……そう」
「ええ」

 やさしい手つきで髪を洗う手つきは変わらない。
 お湯は温かい。
 触れ合う素肌も心地よい。
 けれども。

「…ごめん」
「そうですね。集中したからといって、入浴と食事を抜くのは体に毒だというあの件は、気をつけてくれるということで話がついたと思っていました」
「それは、そうね。…悪かったわよ」
「俺に謝られても困ります。毒になるのはあなたの体に対してだ。…そろそろ流しましょう。一度あがってください」
「それは本当に反省してるけど…そもそもなんでお風呂に入ってるの、私」
「体が冷え切っていたので」
「そう…。でも、勝手に…」
「心配だったので」

 だから、さあ。流してトリートメントしましょうか。
 耳元にささやく声に怒気はない。呆れてもいない。
 けれどしっかりとじむ圧に、巴は小さく頷いた。

***

「お湯、熱くはありませんか?」
「自分でできるわよ」
「一日寝ていたのに?」
「だから、反省したわよ! もういいでしょ!?」
「別に反省を促すためにしているわけではありません。したいからしています」

 それを言われるとどうにも弱い。
 体を洗うための椅子に座らせられて、背後から抱き寄せられて、巴は小さく息をつく。
 惚れた弱みプラス2徹の疲れ、体があたたまったことによる眠気だ。

 その間にも、シャンプーの泡はシャワーで流していく。
 抵抗の意志がなくなるのをみれば、両手で丁寧にトリートメントがほどこされていく。
 ふんわりと良い香りがして、やはりまた眠くなる。
 浴槽の照明はそれなりに明るい。それなりに明るいところでこの状況かと思うといたたまれないのだけれども――静かにトリートメントが流されていくと、体から力が抜けていく。
 いつもならありえないことだと思う。やはり徹夜はよくない。控えよう。
 ―――とろとろと押し寄せる眠気に、彼女はそう決意した。
 それと同時にシャワーが止まる。すすいだ髪はタオルでまとめられた。
 ありがとう、じゃあ軽くあたたまってあがりましょうか一秒でも早く。それと、お風呂は本当に恥ずかしいからやめて。
 そう伝えようと、口を開き、
「ひゃあ!?」
 まったく関係のない高い声が上がる。
 髪を丁寧にケアし終えた指は、同じく丁寧に体の線をたどり始める。
「ちょっと、棗君!?」
「冷え切っていたので念入りに温めた方がいいかと」
「それなら湯舟ってものがあると思うんだけど!? そこに!」
「そうですね。…触りたいから触っています」

 ストレートに言われると困る。言い返すための言葉が心地よさに紛れて、意味のない声に変わる。
 節ばった指は髪から首、首から胸、腹を辿って腰をなぜて、また上へと戻る。
 片手で腰を抱きながら、やさしい手つきで胸を包む。
 暖めるように包みこんだ後、色づいた尖りをゆるくなぜた。

「あたためたいんです」
「もう、充分、でしょ」
「いいえ、まったく」

 真っ赤に染まった頬に自らの頬をよせながら、棗は続ける。

「充分なんてことはありません。
 …たまに、見せたくなる時があります。俺のものだと見せたくなる時が」

 例えば、出張帰りに無防備に眠る顔をみた時。
 例えば、今のような姿をみた時。
 例えば、無愛想なはずの彼女が気安く笑いかける男をみた時。

 伝える代わりに手のひらでやわやわと胸を愛撫して、どんどんと熱くなる頬を唇でなぶる。
 そのまま少し顔を上げて、耳朶を食して呟く。

「あなたはモノではないですし…実際は、誰にも見せたくありませんが」
 顔をあげて、目を開けてください。  楽し気に告げる声に、とろけた顔で妻がしたがう。
 羞恥できつく閉じていた目を開けた彼女は、目の前にあるものに小さく悲鳴をあげた。

「こうしてあなただけに見せるなら構いませんね」

 ぱくぱくと言葉にならない悲鳴をあげながら、巴はがばりとふり返える。
 そうでもしないと耐えられない。
 鏡の中の自分を見るのも、満足げに笑う夫を見るのも。恥ずかしさで死にかねない。

「待って。誰か、って誰によ」
「誰しもに」
「…私のことなんて、誰も見てないわよ」
 見つけたのはあなたで、見せたのもあなただけ。
 言外に主張する強い瞳に、棗はわずかに唇を曲げる。

「……あなたが鈍いんです」
 拗ねた形のまま口づけて、相手の唇を舌先でなぞる。
 しっかりと抱き寄せて背中をなぜれば、耐えかねたように唇が開いた。
 歯茎をなぞり、舌を包み、か細い吐息を飲み干す。
 どんどんと力が抜けていく体を支えながら、棗は小さく問いかける。

「ベッドに行くのと、このままとどちらがいいですか」
「そんなの、聞かないで」
「ここでは最後までできませんが、こらえられないようならば一度達した方がいいでしょう?」

 言葉とともに、武骨な指が下半身をなぞる。
 とろけはじめた場所に触れられ、それ以上にとろけた声が上がる。
「…聞き方を変えましょう。今日は何度頑張っていただけるでしょうか」

 風呂と愛撫と、なによりもそのまなざしと。
 すべてで熱くとけた体で、巴は小さくつぶやく。
 徹夜は本当、気をつける、と。

 

 気づいたらできてたのに追記したやつ。
 やっぱりノーマルな気がするようなそうでもないような。とりあえずベッドで倒れられてると三鷹君青くなりそうだと思ったんですよ。
 すごいノリノリで書いたけどだけどすごい恥ずかしかった。これを平常運転で三鷹君は頭がおかしいと思う。
 目次

こっちは本当これ以上続きはありません

 篠塚巴は親友(女のほう)に甘い。
 それは結婚し、姓が変わっても変わらない。

 慧香が可愛らしくニッコリ笑って頼むのならば大抵のことはかなえるべきだと思っている。

『あのね、ともちゃん。お客さんがくれた試作品なんだけど、いらない?』
『未使用だけど。試作品なプレゼントだからね。売りに出すわけはいかないんだ。いろんなサイズもらったから、どうかな』

 三鷹巴は中崎慧香に甘い。
 ―――ついでに。
 その時その場に「え、お互いの下着のサイズわかるんですか」とかつっこんでくれる人材は不在だ。
「そりゃあ水着選んだことあるし、わかるよね」というただそれだけの話ではあるのだけれども。

 そんな経緯で。
 現在自室のベッドに座っている彼女の目の前にはラベンダー色のベビードールがある。
 ブラの下には薄い生地が続き、ワンピースのようなデザインだ。
 光沢のある、ツヤツヤとした生地で裾や要所要所にふんだんにフリルがあしらわれている。
 確かに下着だし、セットになっているショーツは露出は高い。下着としての役割は果たしているがウェスト部分はヒモだった。
 が、上をきれば下は見えない。もし着るのなら「ちょっと紐が細いし動くのはマズいミニスカワンピ」といったところか。夏場で自分ひとりならば部屋着…というよりはネグリジェとして通用しなくもない。

 これで透けていた日には「慧香になんてものを渡しているのよ」と文句をつけにいかなければいけないところだった。相手は女性だと聞いたが。長い付き合いのある顧客らしいが。それはそれこれはこれだった。
 が、これならば慧香が着ても問題はない。

 さて、自分はどうしよう。
 カップ部分にあしらわれたのは美しいバラ。
 太ももを守るレースも繊細で、観賞用としても見事だ。
。  アンダーバストの位置につけられたリボンもツヤツヤと明るい色で、とても可愛らしい。

 全般的に少女的なデザインだ。可愛らしい。こんな露出のものは止めなければいけないが、慧香なら似合いそうだ。
 自分の趣味ではないし、ガラではない。恥ずかしい。

 けれど今度泊りに行ったときとかに着ていれば喜ぶ気がする。慧香が。「かわいいよね」とか「喜んでくれてたって伝えておくね」とか。
 いやいや、それでもしかし。着れば洗濯しなければならない。こんなものを家の洗濯籠に入れるわけにはいかないからコインランドリーだ。それはやはり恥ずかしい。着るのがそもそも恥ずかしい。

 使わなかったと聞けばがっかりするのかもしれない。、けれど、仕方ない。いざ包みを開いて見てみたら恥ずかしかったといえば納得してくれるだろう。
 試作品ならば売りに出すわけにもいかないし、捨てるのも気が引ける。
 死蔵することになってしまうが…それもやはり仕方ない。
 自分の目的はこれを受け取り『慧香がおかしなものを受け取っていないか確認すること』なのだから。目的は達した。

 うん、と一つ頷いて下着をたたみ、しまおうとしたその時。
 コンコンコン、とノックの音が響く。

「入ってもよいですか」
「…いいわよ」

 響いた夫の声に、巴は少しだけ間をおいて答える。
 手にした下着をベッドの中にしまうまでの一拍だった。

「なにかしていましたか?」
「うん。ちょっと。でももう終わったから気にしないで」
「…それはどなたからの贈り物ですか?」

 静かな言葉に小さくうめく。長年部屋を片付ける習慣を得なかったゆえのウッカリだった。
 棗の目線の先には包装紙がある。しまい忘れた包装紙だ。女性らしいデザインの包装紙。確かにどうみても、誰かからのプレゼントだ。

「慧香からちょっとね」
「そうですか」
「うん」

 頷く彼女に、彼も頷く。
 頷いて―――言葉を続ける。

「なにをいただいたんですか」
「…たいしたものじゃないわよ」
「ベッドの中を」
「え」
「気にされているようでしたが」

 巴の背中に冷たい汗が伝う。  けれども彼女は口を開く。静かに開く。

「……気のせいよ」
「そうですか」
「気のせいよ。それで、用事は?」
「仕事が終わったので顔が見たくなっただけです」
「そ、そう」

 まっすぐな目線に、彼女は少しだけ居心地が悪くなった。
 悪い意味ではない、ただただ落ち着かない。
 何かを見透かされているような気分になる。

「巴さん」
「なによ」
「ベッドの中を見てもいいですか」
「やめて」
「残念です」
「……ダメなものはダメなの」
「そうですか」
「巴さん」
「なに」
「…どうしてもダメですか」
「ダメなものはダメなの!」

ふっと「ベビードールきた巴さんが見たい」って思った。親友があげれば受け取ってくれるだろうと思った。
でもかけたのはここまでだった。
あとあの二人お互いの水着選びあってそうだなと思う。そしてセッションのあれこれ思い返すと巴さんサトカさんにどれだけ過保護フィルターがかかっているのかと心配になる。圧倒的両想い系親友(百合ではない)
2019/09/29
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