未必の故意で作った恋

 彼女が息を引き取った時、それを見ているのは俺だけだった。
 あそこの責任者は俺で、見ているのも俺。
 心拍が止まったことはデータに残らない。

 ―――データに残ったところで、隠蔽できた。

 …俺だけが知る、彼女の死。
 俺の収得した、留めるための技術。

「……名々子」

 ごめんね、許さないで。
 …許さないで、どうか叱って。
 馬鹿なことをって…もう一度喋ってよ。

***

 館内放送を聞いた時、胸が冷えた。
 境目を、正しく。
 判断するのであれば、あの、一度は死んだ彼女は、きっと。

 きっと正しく殺すことを求められるのだと思った。
 その前に起こさなきゃいけなかった。どうしても。
 起こす手段が、必要だった。

 けれど探している途中で時間が切れた。
 嘘をついたのだ、こんな時に。
 怒りも失望ももっともだ。そりゃ追ってくるだろう。
 …三人で手分けすれば、それなりの確率でここに来るだろうし。

 だから仕方ないと思った。
 だけどなぜだと思った。

 なぜよりにもよってこの二人なんだろう。

 なぜ―――…白姫先生は来ないんだ。

 行方不明になるなんて、思っていなかったくせに。
 隔離病棟だ? いまさら何を。

 …いまさら何を、ではいのかもしれない。

 俺のしていることを、彼は知っているのかもしれない。

 …あの回り、罠の数増えるから、行くと割と危ないけどな。
 ……罠の数増やしすぎて、一度見つけたら不自然に思うかもな。

 気づいて、殺しに行ったのかな。
 あの映像みたいに。

 あの映像の―――
 彼女の願いを、かなえに。

 口の中が乾く。
 イライラして、悲しくて、不安で、苦しい。

 ああ、本当に。

 ……あの人が、考えなく、情がなく。
 ああいう願いをかなえる人であればよかったのに。

 当たり散らせば当たり散らすほどみじめになる。
 そんな人じゃ、なかったら。

 俺、正気なんて、なくしたままでいれたのにな……………

***

 目覚めた彼女は、それでもまだ発声が危うい。
 マメに動かしたが、筋肉の衰えはどうしよもない。

 それでも上体を起こして、ベッドの上から外を見る姿に、そっと声をかける。

「中華街のお土産、杏仁豆腐なんだけど。食べれる?」

 少し悩むように視線をさまよわせて、申し訳なさそうに首をふる。
 予想していたので、病院そなえつけの冷蔵庫にいれる。
 賞味期限が切れるまで食べれるならよし、無理そうなら前日に熊蜂先生に譲ろう。そんなに甘くない、百目先生チェックも逃れるはずだ。たぶん。

「じゃあ、こっち。パンダを買ってみたよ」

 手のひらを借りて、キーホルダーを手渡す。
 少し悩んで、カギも取り出す。

「…俺の今の部屋の合鍵、なんだ、けど」

 退院したら一緒に暮らしてくれますか。
 みっともないほど震えた声に、彼女が笑う。

 結果がどちらでも、それだけでいい。
 彼女が笑っているなら、本当に。それだけで、いいんだ。

 色々いったし嘘ついたけど彼はあの班のメンバーが普通に好きなのであの後静かに同じチームで働けたらなと思っていますよ…。  後ナンパになったの「失踪気にしてません」のポーズだったから…。もうナンパはやめるかな。下手なボケは元々だから続けるけど。  本来内向的で、静かな青年でした。  目次