我が家は蓄えていた財を取られた。両親が亜種聖杯戦争とでもいうべきものに巻き込まれた結果だ。
信じていた同盟相手に魔術刻印を破壊され、死骸になった両親は。なぜそうなったのかを教えてはくれない。
魔術のことだってほとんど教えてはくれなかった。それは両親とともに死んだ兄の役目だったから。
だからこれは独学で暴走でうまくいくはずなんて、なかったのに。
「サーヴァントアサシン、召喚に応じ馳せ参じた。
……ほう、君も復讐の為に戦うのだな。
互いの願いを叶える為にしばしよろしく頼む」
きらきら。
一瞬光った魔法陣から、忍者のような格好の男が現れた。
名を、と聞いた。
暗い―――違う。夜みたいな目をしたその人に。
「ん?俺の名か。ふ…覚える程でも無い。
ただ罪も償えぬ、つまらん男よ」
その人は、当たり前みたいに私の手をとった。
なんとなしに手を重ねて、それが私の復讐のはじまりになった。
「ねえ、アサシン」
「ああ」
「君も、っていったよね。…アサシンも、復讐が願いなんですか?」
少女の問いに、男は目を伏せる。
目を伏せ、言うべき言葉を探し……すぐに主を転がし、己の体でかばった。
くないの雨が降ったのは、その一瞬後だ。
「―――ふ。ふふふはははははははは! 君も、君も、君もといいますか? アサシン。
ああ素晴らしいあなたは覚えてる!
あなたは思い出してくれたんですね!
私の世界のあなたと違う、随分と甲斐性があるじゃないですか!」
雨あられと降り注ぐくないと共に、若い声が下りてくる。
アサシンの知る声が、殺意と共に降りてくる。
「ごきげんよう、ひ―――と呼ぶのはやめて起きましょうねぇ。我らは英雄にあらず。真名など知れたところでなんてことはありませんが。…ふ、ふふ。むしろ名が知れた忍者などお笑い草ですよねえ。ふ、ふふふ、ふふふ。
いえいえ、そのようなことはどうでもいいですねえ―――ああ、その子に合わせて私もこう呼ぼうかしら。…ねえ、おにいちゃん? あは。ああはははっははははははは!」
「……随分、よく笑うのだな」
「あら? 当たり前でしょう? 愛しいあなたに会えたのだもの」
彼の良く知る彼女は、彼の知らぬ表情で笑う。
「愛しい愛しい愛し私の―――ものではないあなた。ああ。何度目でしょう。何度目の開合でしょうか。兄さん」
彼の記憶より少々伸びた髪と、手足と―――彼のものと同じ武器を携え、少女は嘲笑した。
「さあ、罪を償ってくださいな。何度でも、何度でも。…そうしたら、私は―――この世界でこそ、満たされるかもしれないんですよ」
夜。
炎がその部屋をうっすらと照らしている。
灯りない部屋の入口で死体が燃えて、うっすらと。部屋と少女を照らしている。
「出てきてくださいよ。私が燃やしたのは分身でしょう? 私が分からないとお思いで?」
「だろうな。…稽古をつけたことも、あったからな」
「ええ、そうですね。そして、違います」
だって、とあでやかな声が響く。
「私、もう。何度もあなたを殺しているのだもの」
踏みいったその部屋には、首があった。
首と少女の部屋だった。
己と同じ顔が生首、あるいは骨ののぞく首になった姿に。暗殺者はわずかに眉を顰める。
その中心で笑う少女に、眉を寄せる。
「…ねえ、アサシン。あなたは私のものではない。こうなった時点でただの影絵。…ええ、あなたは私の探す人ではないのです。私が探していたのは、この世界線のあなただから。
そう、あなた。私が欲しいのはあなただけ。憎んだのはあなたともう一人。けれど、あの人の首は違う人のものだわ。父も母も、二人の復讐であの人を殺したらきっと泣いてしまうから。
私は、私の権利であなたを憎むの。ねえ。アサシ―――久六さん」
少女は一歩踏み出す。
男は身じろぎもしない。
「この世に奇跡は聖杯だけじゃ、ありません。あるいはあの女が作ろうとしていたものも、一種の奇跡。
―――あなたを殺した後の私が出会ったのも、とある奇跡だった」
少女は一歩踏み出す。
男へと手を伸ばす。
「私はサーヴァントではありませんよ。でも、もう。そのままではありませんね。神器というのが一番正確かしら……?」
その手に握られた刃を見ても、男は顔色を変えない。
「やり直せるとね。言ったのです。私の手にしたその本は、私の望みをかなえると。ああ。その時私が、やり直しを願えるようなよい子なら、このようなことにはならなかった。
私はね。あなたを殺して、あの男も殺して―――…でも、ちっとも満たされなかった」
瞳に宿る憎悪を見ても、わずかに眉を寄せるだけだ。
「だからね。それを手にしたとき思ったの。
平行世界を見せてくれたそれに、私は願った。世界を渡り、何度でも。何度でもあなたを捜して、殺めて。殺めて、殺めて―――このようなものになり果てた」
ころり、転がった首の一つを踏みつぶし、少女は笑う。
歪に笑う。
「百度殺しても足りない。千度殺しても足りない。永遠に殺しても足りない。足りないけど――…いつか。あなたを殺し尽くせば、いつかあの日の静帆は救われるのかな……?」
「…君は…、もう、やめ―――」
「やめろ? あははははは、はは。やめろですかぁ? あなたが私にやめろって言うの? 私、痛かったのに」
「…っ」
「やめて、痛い、兄さん。痛い。やめて、怖い、ねえ。…ねえ、お兄ちゃん、止めて。…やめてって、たくさん言いましたよ。
あの人の親もそういったかしら? ああ、それともあの人を守ったりした? 覚えてる? ねえ、そちらも思い出しているの? 私のあなたは、最後まで思い出してくれなかったのだけど」
「…ああ」
「うふふ。…本当に、アサシンのあなたは物覚えが良いこと。…でも、ねえ。最初に止めなかったのはあなた。―――今の守るべきものを置いて、救われぬものに情をかけにきたのもあなた。本当にむごい人。ひどい人。あなたはあの日も、一人、いなくなっただけ。…ふ、ふふふふふふふふふ。ねえ、アサシン。人間って、簡単に瞳術に落ちるわよねぇ」
「お前、まさか」
「うふふ。―――確かめたければ踏みにじっていきなさいな。あの日と同じく私を踏みにじっていきなさいな。…私とあなたの果てなんて、それしかないって言ってよ!」
カラリ、と最後のくないが落ちる。
ふらり、と細い体がかしぐ。
彼の記憶にあるより少しだけ伸びた背丈。少しだけ痩せたからだ。
その理由を知る―――すべてを思い出した彼は、その体を支えた。
「…可能性をね。見たんです。私、こうなる前に、たくさん」
「…ああ」
「私、あなたに。おかえりって…言えた世界、が。殺さなくていい世界が、そこに。あった……」
「……ああ」
「おにいちゃん、私、ホントは。あなたを、信じたくって」
「……もう、喋るな」
「あの私が。うらやましくて。だからさがしたのに。あうと、殺したくなるの」
「…雪城――…静帆」
再開してからの呼び名と、かつての呼び名を一度。
空をさまよっていた視線が彼へと戻る。
黄泉に向うからだが、笑顔を作る。
「久六さん、兄さん、ねえ、私、静帆、一人で頑張ってきたよ…」
「ああ」
「かえってきてくれた、ら。…うれしかったんですよ」
「ああ、知ってる」
「ほんとう?」
「…今度は忘れないよ」
「…うん」
細い手が男の頬をなでる。甘えるように。
同様の色の瞳で、彼女は笑う。
「ねえ……眠るまで、いてくれる?」
「……そのくらいしか、できないからな」
それだけでよかったの、と。
小さなささやきが、最後。
動きを止めた体に、彼はため息を落とした。
冒頭のセリフは遠い昔に自在さんが回答されてたやつをそのままお借りしています。
そんな。なんちゃってフェイトっぽくシノビっぽいパロ。彼女は平行世界からの化け物かなにか。
少女マスターに「頼むな、おにーちゃん」とか言われて一瞬固まる久六さんがみたい。
なお、私の聖杯戦争の知識は割とやる夫スレに偏っているのでなんかポコポコ気軽に起きるような感じで書いてるねははは。
鍵鎮シモンは渋い顔をさらす。分厚いゴーグルに目元は覆われているが、実に渋い顔をさらす。
目の前の少年は笑っている。おごってやった食事に笑っているのかもしれないし、彼の苦悩を笑っているのかもしれない。
どちらにせよ、それは彼の正当な権利だ。
陰から支援してやるつもりだったし、恨まれて当然のことをした。だが。しかし。
「…遠慮がないな」
「えー? 成長期だから」
「身長的な意味ではほぼすぎているだろう」
「じゃあ、身体が資本だからー?」
カラカラと笑い、食べごろになった焼き肉をまた一枚すくう。
一枚数百円のそれなりに良い値段の牛肉は、元気に彼の口の中へ消える。
「…別にいいが。君は他にもそうなのか?」
「まっさかあ。嫌がらせだよ?」
「……なるほど」
「嘘ですよ。冗談ですよ」
「だろうな」
「嫌がらせなら―――復讐ならこんなんじゃすまないよねぇ」
軽い言葉と共に、白いご飯を一口。
見る見る間に消えていくどんぶりの中身に、シモンはそっと息をつく。
「では、本当は?」
「え? 支えてくれるつもりだったんでしょ? ならこのくらいいでしょ」
「それにしては、回数が多いが」
初めて彼に食事をおごることになってから、こうしてたかられたのは何度目か。
再度深く息をつく年齢不詳の男に、少年はニッコリと笑う。
「身体は資本だからねー。…体作って色々したいこともあるしー?」
ニコニコと、軽やかに。
笑う彼の『やりたかったこと』を知っている。
今はどうなのかは――……
今もそのままだとしても。
自分は、自分たちには受け止める義務があるだろう。
「…分かった。覚悟した。好きに食え」
「あ、じゃあこのマンゴーみたいに切ってるのとかいいな」
「人の金をなんだと思っているんだ」
指さされたナンバーワンメニューに、苦い声が上がる。
その声が甘いといわんばかりに、由良はクスクスと笑った。
由良君可愛いよ由良君。ずっとたかってほしい。しかしあのシナリオシモンさんの立場も大概辛いよね!ははっ!
「精が出ますね」
「うん、そうだね。強くなりたいし」
「そうですか。強いことは良いことですね」
「だよねぇ」
「ですが、適度な休息も必要ですよ。飲みますか、これ」
「新シショ―に持ってきたんじゃないの?」
「久六さんは勝手に休むでしょう。あなたにのませるつもりで持ってきました。
…ええ、だから。毒など入れていませんよ」
「やだなぁ、そんな心配してないよ。というか、久六さんに落ち着いたんだね」
「そうですね。…元々兄ではありませんから」
「ふぅん。でもこうして一緒にいるんだ?」
「一緒に、というか。あなたが修行のドサクサにまぎれてやってしまうかもしれないと、ついてきました」
「そんな気はまだないけどな」
「ええ。でも急にそんな気持ちになるかもしれないでしょう?」
「なるの? 雪城ちゃんは」
「…あなたならきっと、言わずとも分かってくれるでしょう?」
「そうだねえ。でもきっと、ちょっとわかるだけだけどね」
「それもまた、道理ですね」
みたいににこにこにこにこ悲しい会話を繰り広げりするんじゃないでしょうか。って思う。
あなたは『手当てをするのがやたら上手い』久六のことを妄想してみてください。 https://shindanmaker.com/450823 から妄想しました。
「ああ、随分うまいんだね」
「なにが」
「手当さ」
どこか艶のある声で女は言う。
指さす先には、つい先ほど修行でついた傷。
自らのつけた傷を手際よく処理する弟子に、師匠は笑う。
「そんなもの、そのままにしておいても問題ないだろう」
「……心配を」
「ん?」
「…いや、なんでもない」
ゆるく首をふる久六に、桜は笑う。
笑う。
嘲笑う。
心配を―――させたくない。
そんな言葉を見透かしたかのように。
背を向け帰路につく彼は、それを見なかった。
「……おじ、…おにいちゃん、包帯多いんですね」
「すぐ直る」
「…そう」
「……俺は死なない」
「…うん」
両親を亡くしたばかりの少女は、頷いてふわりと笑う。
無理をしているとよくわかる笑みに、親戚の男はゆるく息をつき、軽く頭を撫でた。
みたいなことがあったんじゃね?って思った。 今は昔の幸せの話。
とある任務で一度組んだことのある生徒だった。いわゆる後輩で、実に従順かつすこぶる有能だった。
いつのまにやら階級を抜かれたらしい。
いや、そんなことより。
そんなことより、と千吉は思う。
「……先輩、どうかしましたか?」
二度目に顔を合わせた後輩は、とてもうれしそうに笑っている。
彼の記憶の中でも、よく笑っている少女ではあったが。
今、心の奥底から幸せそうに笑っている。
「いーや。なんもしてないで。…そっちこそ、なんかええことあったん?」
けれど、なんだろう。この違和感は。
とても幸せそうに、明るく見える笑顔。
けれど、前よりもよほど、暗く見える。
なんだろう―――
―――ああ。
似ているのだ。
同じではないが、受ける印象が
かつての親友と出会った直後に似ている。
思いつめたように笑っていた表情と被る。
「良いこと、ですか。…ええ。ありました。ありましたね…」
なおも彼女は笑う。
白々と明るく、どこか危ういまでに。
「欲しいものがね、あったんです」
「ほうか」
「欲しいものが、ようやく手のうちに戻ってきました」
「……そら、良かったな」
少し迷い、言祝ぎを送る。
ええ、と笑う少女は、うっとりと続ける。
「今度は、どこにもいかないでくれた―――一緒です。…でも、先輩」
「なんや」
「私と一緒にいると、あの人はきっとずっと苦しいんです。
きっとずっと苦しんで、でも、私、それが見たくて…同じくらい、見たくないんです…」
「…なんや、えらく複雑なんやな」
「ええ、本当に。…だから苦しくて、もう、見たくなくて。…でもやっぱり、私は、あの人のことが、あの人の傍に、帰りたかったんです。ずっと」
「……ほうか」
「だから…だけど、嬉しいんですよ。きっと」
「…無理はあかんで?」
「ふふ。先輩は優しいですね」
「そりゃあ、生徒会やからな」
「そうですね」
くすくすと笑う様がどこか痛々しく、うつむく頭に手を伸ばしかけ―――やめる。
確かこの少女は、異性に怯えるフシがあった。
事情は聴いていないが。それこそシノビだ。そのくらい分かる。
「…本当に、私は。私たちは」
うつむいたままに少女はつづける。
誰にも見せない、幸せそうな―――つらそうな笑顔のままに。
「…どうして、あんなふうにならなきゃいけなかったんでしょうね」
答えを求めぬ問いかけは、そっと居室に沈み、砕けた。
花瀬川 千吉さん(PL自由自在様)をお借りしています。
所属が一緒ならこんなこともあるかな、って。
きっと雪城はしばらく痛々しい。
暗く、寒い夢を見る。
夢ではない、現実だ。
真っ暗い場所の夢。
両親が死んだ直後の夢。
いってきます、と言ってくれた。
けれど両親は帰ってこなかった。
犯人は、鍵鎮 シモンという男らしい。
寒い。
辛い。
悲しい。
寂しい。
ひとりぼっちだ。
ひとりぼっちだ――――と。
そう思っていると、風景が変わる。
夕暮れ時の、山の中。
林の中。
こちらに向かう影が、一つ。
『………おにいちゃん』
おじさん、と呼ぶと微妙な顔をされた。
苦笑するような顔に見えた。
だから、そう呼んでいた。
私の父ではないから、そのあたりがいいのだろうと。
―――記憶の中の、時刻は夕暮れ。
人の顔すらうかがえないとうたわれる黄昏時。
誰そ彼の時間。
でも、それでも。顔が見えなくとも、その人のことは知っている。
『こんなところにいたのか』
両親が恋しくて泣いている私に、手を伸ばしてくれた。
『…ほら』
手が伸ばされる。
その人から、優しい言葉をもらった覚えはない。
それでも、優しかった。
声色はあたたかかった。
面倒を見てくれた。
傍にいてくれた。
私の、大事な。
大事な人。
ぐるりと風景が変わる。
――悪夢の中の、時刻は夕暮れ。
人の顔すらうかがえないとうたわれる黄昏時。
誰そ彼の時間。
でも、それでも。顔が見えなくとも分かってしまう。
覚えている。
……焦がれていた。
違うと言いたいのに、言えない。
だって。
『兄さん? なぁに?』
『兄さん、痛い』
これはいつもそばにいた手だ。
これはいつか撫でてくれた手だ。
それに、だって、なによりも。
『たすけて』
助けを呼んでも、来てくれない。
―――助けてくれる人は一人だから。
私を助けてくれるのは、今この体を傷つけるこの人だから。
『…おにいちゃん…』
どこからかおるのか知りたいくない生臭い匂いと、自分が吐き出した吐瀉物の匂いが鼻をつく。
一拍遅れて、そこかしらから流れる血の匂いも。
ああ、無力だな、と。
ああ、辛いな、と。
そんな思いも、息苦しさに流されて。
痛い。
痛くて、みじめで。気持ち悪くて、つらくて。
誰かに助けてほしいのに、両親のことは呼べなかった。
おにいちゃん、と繰り返す度。
すがるように、呪うように繰り返す度。
身体がバラバラになりそうなくらい、痛かった。
バラバラに、あの時砕けてしまったのかもしれない。
だって、憎いのに。
憎くて、辛くて、仕方ないのに。
どうして――――
あれが嘘だと、思いたいのだろう。
夢が終わる。
夕焼けはもう見えない。
真っ暗な、一人きりになった家で。自分の嗚咽だけが響いている。
むき出しになった脚が寒くて、中途半端にひっかかった衣服をかき集める。
寒くて、みじめで。つらくて、かなしくて。
すべてが引き裂かれるような、あの夢は。
いつもそうして、終わる。
終わり、目覚めると。
吐き気がしたので、トイレにかけこんだ。
――――そんな風に過ごした五年だった。あるいは、三年だった。
目の前には、憎い仇が二人いる。
なにを、守るなどと。
契約とはいえ、守るなどと。
いったいどの口が、そんなことを言う。
覚えていないのか。
この男も、あの男も、何一つ。
覚えて、いないのなら―――…
お父さんもお母さんも私のことも、そのくらいだったのだろうか。
憎いと思った。
殺してやろうと思った。
だからついて回った。
どこでなにをしているのか、把握していないと恐ろしかったから。
あの年下の同類だって、同じだ。
鍵鎮 シモンが気にしているのだから、なにかでつながりがあるのかと思った。
だから、まとめて殺す気だった。
だから周辺を調べた。
信頼されるように、言葉を選んだ。
殺してやろうと思った。
少しでも信頼させて、殺してやろうと。
覚えていなくとも、一かけらでも。
一片でも、両親の無念が分かるように。
でも。
でも。
でも。
鍵鎮シモンの行動に、味方を刺す類の狂気は見えなかった。
久六―――義兄の行動には、昔のなごりしかみつからなかった。
迷っているうちに、級友が倒れていた。
私だけでは助けられなかったであろう、大事な友人。
―――暗い、救いようのない泥沼から、私をひきあげてくれた人達。
彼女を助けたのは、よりにもよって久六だった。
なんで。
なんで。でも。だって。それなら。
怪しい刀に、嫌疑を向けた。
―――出てきたのは、都合の良い情報だった。
だって、これが、本当なら。
本当なら、これが私の仇だ。
私の愛しい両親を殺した者。
―――私の大事な人を、変貌させたもの。
憎かった。
辛かった。
殺してやりたかった。
5年間ずっと。
3年間ずっと。
憎かった――――そんなことしか考えられない無力さが。
辛かった――――すべての幸せを疑い尽くす、その暗い人生が。
殺してやりたかった――――
――――けど、それでも両親は帰ってこない。痛む体はそのままだ。恐怖も、みじめさも。全部。そのままだ。
胸のうちがぐちゃぐちゃと痛い。
目の前には、憎い男が二人。
後ろを見せる気になどなれない、憎い、憎い男が二人。
……このまま憎み尽くせたら、どんなに。
どんなに楽で……惨めなんだろう、な。
色々捏造して書いてみた。
大体こんな感じの行動方針でした。
一生憎みながら慕うんじゃないでしょうか。どっちも。
本当出世して鬼のたくらみ事前につぶすマンとして人生を歩みたい。
本当は。
兄ではなく、といった由良君の言葉の意味も、分かっているけれど。
ああ、いっそ。あの時。
私が彼を慕っていたと思えば。
そう、思い込んでしまえば。
傷つけられた記憶は、遠くなるだろうか。
愛した相手ならば、と。そんな風に。
「……はっ」
そんな安い絶望じゃないのよ。
あの時、あの瞬間まで。
もしかしたら、本当は。
大好きだったかもしれないあなたを、そういう意味で愛することなど、きっと、もう。ないのだろう。
傍にいて、アレが嘘だと―――刀の所為だと示していてほしい。
近くにいて、もがき苦しむ様を見て―――そうして、ようやく。ほんの少しだけ救われる。
ぐちゃぐちゃになったこの気持ちをなんと呼ぶか、私にはもう、分かりはしない。
アフタートークでちらっといいましたが、雪城 静帆の由来はスノードロップです。 雪と雫が名前に隠れてます。割と有名だから『雫』は使わなかったけど。
花言葉は「慰み・希望・逆境の中の望み・幸運を呼ぶもの」
人に贈る際は、「あなたの死を望む」です。
めっちゃ望んでたしこれから先望まないとも限らないよ! っていうか、学園じゃないので作ってたら殺しましたしね!
「別に楽しくて笑っているわけではありませんよ」
「便利ですから。笑っていた方が」
「けれどそうですね。
学園生活は楽しいような気がします」
「だから今は笑っています」
そういって微笑んだ少女が、床にうずくまり動かない。
うずくまり、肩をかきだいて、ガタガタと震える。
痛い。
やめて。
お願い。
痛い。
兄さん、やめて。
おにいちゃん。助けて。
ガタガタと、ガタガタと震える少女は床に顔を伏せている。
小さな声で兄を呼んで、ガタガタと震えている。
―――呼ばう人間がすぐそばいいることに気づかずに、ふるえている。
「……」
兄として呼ばれる男は、そっと手を伸ばし、ふるえる背中をわずかに撫でる。
何の反応のないまま、助けを乞う声は。
暗い部屋に、何度も木霊し消えていった。
みたいな感じにあの後生きていくんじゃないですかね。
傷ついてほしいと思うくらいには恨んでる。
自分の傷ついた姿をみれば傷つくだろうと思う程度には信じてる。
たぶん元々は泣き虫なんでしょうね。雪城さん。怒ったりもしたと思いますよ。
いつか元に戻るといいね。
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