(ここにはいない神無月さんがなぜか)絶望の孤島の後日かもしれないし違うかもしれないしとりあえずIF

「…ともちゃんは…三鷹さんのどこが好き?」
「ん!?」
「いきなり立ち止まると危ないよ?」
「いやそれは…いきなりなに?」
「いきなりだけど…別に驚くようなことを聞いたつもりはないけど…。  …え、驚くようなことなの? 好きじゃないの? なにかしらうまいこと言いくるめられたの? それかほだされるようなことでもあった? 三鷹さんの腹に穴でも穴でも開いて同情でもしたの?」
「三鷹君とはそんな危ない目に合ってないしほだされて付き合わないわよ…」
「…とは?」
「…あのときよ、あの時。…慧香もいたでしょ。あの時三鷹君がきてからは、誰も大怪我してないでしょ?」
「…あ、…うん」
「だからそんなに心配しないで。…ほら、いい大人が泣きそうな顔してないで…」
「じゃあ改めてどこが好きなの?」
「その話題は流れないのね!?」
「重要だし! 私昨日一晩三鷹さんのいいところ考えたけど! (いざという時盾になりそうに)背が高いことと!(はぐれても人ゴミの中で目立ちそうに)背が高いことと!(病気などと縁がなさそうに)背が高いことしか…わからなかった…!」
「そ、そう…」
「でも別に私が分からなくてもいいし! ともちゃんがいいというならそれでいいわけだし! ということでどこがいいの!?」
「…それは、…その。…ほら、付き合うということになった、としか…」
「……」
「……そういうこというのガラじゃないのよ」
「…知ってるけど。……じゃあ聞き方変える」
「まだ続くの?」
「ともちゃん、あの人といると幸せ?」
「………さあ?」
「…そう」

さあと呟く彼女がちょっと照れているように見えたのでもうなにも言わないでおこう。とか思うかもしれないし、思わないかもしれない。
いや。彼女本当基本は温和な人ですよ?本当ですよ?ちょっと追いつめられるとチンピラなだけですよ…

三鷹君と篠塚さんの捏造ポッキーの日。

 11月11日、とある女性のアトリエ―――の、来客用に整えられたスペースで。
 家主はそっとポッキーをくわえてみた。
 なぜと聞かれたら、魔がさしたというやつだ。他人を。交際相手を招くにあたり、昨晩遅くまで自宅の掃除をしたせいで少し疲れていたのかもしれない。
 ―――それはさておき。
 唐突なその行動に、彼女の向かいに腰かけた男性はパチリと一度瞬きをし、しばし固まる。
 ―――この冷静な男が自分の挙動で動揺し、戸惑う姿を見るのは悪い気分ではない。
 だから彼女はそれを見た時点で満足で、そのままポッキーをかじろうとして、
「…な、なに」
 肩をつかまれ動きを止める。
「それはこちらのセリフかと」
「…ポッキー食べようとしてただけじゃない」
「なぜそれをわざわざ俺に見せる必要があるんですか」
「……逆に、なんでわざわざ隠す必要あるわけ?」
 肩をつかまれ、否、肩を抱かれ。じりじり近づいてくる彼の表情は変らない。
 内心に渦巻く葛藤やその他諸々を察そうとしても、その余裕は彼女にはない。ただじっと睨む形になる。
 身長差ゆえ、自然と上目遣いに。
 近づく距離に頬を染め、そのようなことを口にしたところで、状況は好転しない。そう突っ込むものはどこにもいない。
 それをみて笑いをこらえそうな青年も「若くていいな」とかコメントをいれそうな探偵も「なにいじめてるんですか」と舌打ちする古物研究家もいない。
「11月11日はポッキーの日。…巷ではポッキーゲームとやらをするとかしないとか」
「あなたそんなアホみたいなこと仕入れるツテあったの!?」
「…女性をエスコートするために必要そうなことは最近見境なく仕入れるようにしています」
「本当に見境ないわね…?」
「馬鹿みたいだと思いましたが。今この状況は…悪くないというやつかと」
「悪くないって…」
「かわいらしいなと」
 長身をかがめ、耳元でささやく声の主の表情は予想がつく。
 今目を明けて、顔を合わせれば、余計に何も言えなくなる。
 みるみる赤くなる顔には自分で気づかぬまま、それでも彼女は小さく呟く。
「…本当に」
 なんでもないったら、と。顔をそらして吐き出したような声に、ため息が返る。
「……なら、本当に。
 本当に、思わせぶりな行動はやめていただきたい」
「別に、そういうつもりじゃ」
「ではどういうつもりだったんでしょうか」
「…特に意味はないわよ」
 なぜか震える声を絞り出し、彼女はそっと自分の肩にある手をはがそうとする。
 けれど。
「本当に?」
 伸ばした手が肩に触れるより早く、真剣な声に肩が揺れる。
 それでもここで黙れない。黙れば―――逃げられない気がする。
「勝手に勘違いして」
 しているのは、そちらだと。
 振り向き言おうとした言葉明けてが、喉で萎える。、br>  彼女の予想よりはるかに真剣な顔をした彼に、言うべき言葉を見失う。
「…悪かったわよ」
「いえ、別に」
 するりと離れていく手に、彼女は静かに息をついた。

ツイッターで投げたののちょっと修正版。回すたびに巴さんの据え膳率があがっても紳士な三鷹君はえらいなあと思います(作文)

夜が来りて悪魔は笑う

 ふわりと波打った髪が、ベッドの上に散らばる。その瞼はじっと伏せられ、長い睫毛が顔に影を落とす。
 細い呼吸の度、その胸はゆるく上下を繰り返し、彼女の生を示している。
 ―――けれど。
 その身体は真っ赤に染まり、呼吸の音は徐々に弱っていく。
 首から滴る血液が、シーツを赤く、次第に黒く染め上げて。
 彼女の傍ら、長い髪を背に流した男が笑っている。
 つくりものだと隠す気がない、張り付いた笑みで男は言うのだ。
「だから言ったじゃない。
 大事なものなら閉じ込めて、しまっておかないと。
 なにがあるか分からない―――っていうよりさ」
 楽しそうに笑って、取引相手が己を指さす。
 彼の視線に従い、目を落とした先。
 視界を埋めるのは、真っ赤な手。
 どろりと赤く、次第に黒く。血に染まり汚れた両の手の平。
「それ、生身の人間を抱ける手なの?」
 男が笑う。
 笑って嗤って、その間にも女の呼吸音は弱くなり―――

 胸の上下が止まったその瞬間、目が覚めた。


 自室のベッドで目を開けて、三鷹棗は息を吐く。
 うつむいたその表情は、誰にも見えない。彼自身にさえ。
 それでも。
 汗で湿った手の平が、ぎゅうと清潔なシーツを握った。

いろんな意味でそろそろ怒られそうと思ったけど三鷹さんの後日談と弱み篠塚さん発言に萌えたのでつまりこういうことかと思って、つい。つい。つい。実際あったらPlは泣くし親友は闇落ち待ったなしだけれども。
 あといともたやすく賭けられる朱雀野さんの命にちょっとほろりときた。え、それでも相棒好きなんだよね…?健気枠だったんだ…?

三鷹君見えない首輪でもついているのか発言にはっとなったんだ

 依頼のために渡された目を通せば、対象を確保する手段がすぐに思い浮かぶ。
 確保した後にするべきことも同じく。考えるまでもなく思い浮かぶ。
 今回の依頼は生死も問わないという。ならばとてもシンプルでやりやすく、しくじることはあり得ない。
 そう、すべては滞りなく進み、終わるだろう。
 ―――だというのに。

 今、手にしている資料が重い。
 先日囁かれた言葉が重い。

『もし君の大事な人から情報を欲しいって言ったらちゃんと仕事してくれる?』

 愉快気に笑んだ唇から放たれた、毒に似た言葉。
 あの時流し込まれた毒は、耳を通って全身を冷やし、勝手に眉をよせていく。
 数日たっても消えない怖気を、彼の中に残す。


 ―――こうして。
 目の前でグロウ・キャンベルと向かい合っている今は、なおさら。

「難しい顔だね。そんなにおかしな案件を任せたつもりはないけど?」
「…いえ。あなた自身が足を運ぶのが珍しいと思っていただけです。朱雀野はどうかしたんですか?」
「ん? 元気に暇してるよ。三鷹君に会いに来ただけ」

 予想通りの言葉に、ため息をつくことはしない。仕事で、あるいは生来培われた自制心が、そこまでの愚行を制御する。
 ―――そのことさえ、この笑顔の前には見透かされているのだろう。
 ページをめくる手に、さらなる重みがかかる。
 からみつく視線を避けるために資料を見ても、そのプレッシャーからは逃れられない。

 そう、逃れる場所などない。どこにも。
 この男と知り合った瞬間から、そのようなものは燃えつきた。

「このあいだ聞いたでしょ、色々。そうしたら思った以上に面白いことになっているんだな、って。すごく気になっているだけだよ」

 笑顔のまま告げられた言葉に、三鷹はなにも返さない。
 声を出す自由すら奪われたように、ただの一言も返さない。
 黙する彼の喉に、なにかが絡むような錯覚。ひんやりと冷たい、まるで首輪のようななにか。
 けれどその胸には、ひどく熱い感情。これまで予想もしなかったような、ひどく御しがたい感情。

 相反する感情に歪みそうな顔を紙で隠す三鷹に、向かい合う探偵はうっすらと笑った。

見えない首輪でもついてんのか発言に大層萌えてかっとなってやった。これで本当にラストだと思いますさすがに…さすがに…!
いや三鷹君は本当なんで金に困ってないだろうにそんなことしているんだ。趣味か。稼業か。気になるよ!?



狂気の淵にて会いましょう

・「ゆーなさんのTLに流れてたIFSSとちょっと状況違い」「慧香さん三鷹さんにそれなりに好意的になってるらしい」「朱雀野さんを多少克服してる」「三鷹さん失踪時に『あやべ次ともちゃん』的なアイディアロール成功」などのルート分岐を経た世界。
 かっとなったんだよ! かっとなったんだよぉ!

****

 薄暗い夜の道を、小柄な女性が歩いている。
 ゆるくウェイブがかかった黒髪をふわりと揺らし、女性は静かに歩く。人通りのない道を。
 彼女の歩みは静かに進む。けれど、整った眉はぎゅっと額により、口元が強く引き結ばれている。
 まるで不機嫌なような表情だが、見る人が見れば―――憂いを秘めていると分かる表情で。
 
 静かに、静かに歩く女性の後ろ、そっと歩み寄る影がある。
 彼女よりなお静かに、ひそやかに。彼女の背中へ歩み寄る。

 男の手の中には、鈍い鉄の輝き。
 それを女の背中につきつけて、男は低く告げる。
「余計なことをせずに。ついてこい」
 銃をつきつけられた女は、ぎくりと肩を震わせる。
 けれどその声は揺れない。騒ぐこともしない。ただ、小さく問いを発する。
「三鷹君のこと?」
「話す義理はないだろ」
「…なに、死ぬ女には話すことはないってあれ?」
「最終的にはそうなるんじゃないか」
「あら、話すことなくとも聞くことはあるとか?」
「ここでは撃っていない。それが答えだろう?」
 彼は確かに三鷹棗の弱みを―――いっそ変貌の要因というべき女を連れてこいと、人生を捧げる相棒に命じられてきたのだから。
 脅すわけでも笑うわけでもなく、ただ真実を告げるようなその言葉に、女性は呟く。
「…そ」
 彼女は篠塚巴の口調で呟く。嘆くわけでもなく、怯えるわけでもなく、小さく呟き―――
「…じゃあ、私の勝ち筋、残ってないや」
 その口調が変わり、抑揚が欠ける。
 彼が何かをするより早く、彼女の口が動く。
 ひどく冒涜的な呟きは一瞬だけ響き、ぐしゃりと肉が潰れるような音が続く。
 振り向いた髪が変わり顔が変わり、手にしていたカバンが落ち。代わりに警棒を握り、彼女は振り向く。 
 ―――つい先ほどまでとは違い、自身の顔で、容貌で。慧香はじり、と足を動かす。
 逃げるためではなく、自分に適切な間合いを取るため。朱雀野から逃げることも倒すことも、奇跡でも起こらなければ無理だとしても、身に染みて、否。かつて目に焼ついて分かっていても。

「…アイドルの親友は姿変えて成り代わってたんだったか? それがこれか」
「知ってるんだ。……あなた、あの件、最後まで気にしてくれてたんだ」
 ―――せめてこれに驚いて、正気でもなくしてくれたら、私でもいけたかもしれないのに。
 震える身体で構えをとって、彼女は笑う。
 つまらなそうな顔をする彼に向かって、せめて笑う。
「化けて身代わりか? ならば最後まで続けないでどうする」
「そのつもりでしたよ。でも最後まで続けられないから、諦めます。
 私の唯一の勝ち筋は、あなたが入れ替わりに気づかないまま、篠塚巴の死体持っていってくれること。
 …三鷹さんに、話、多少話聞きましたから。この後恐ろしい話し合いが待ってるなら、私、あなた方が望む答えもっていないわけですし。どうせ白状しちゃいますよ、彼女じゃないこと」
「ふぅん。そうか」
 無造作にそう言って、朱雀野は歩を進める。
 一歩踏み込み、その勢いのまま放たれた蹴りは、一度警棒に阻まれる。
「でも。…そういうことも、あるんだろうなと、思って、彼女の居場所は、知りません。知らないものはなにされても話せない。…ねえ、残念ですか、少しは!」
「いや、特には。お前に聞かずとも、調べれば分かることだ」
 息を切らして蹴りをさばいて、叫んだ勢いで踏み込んで。ふるった警棒は男の顔へ向かう。
 彼女の狙い通りの一撃は、彼がわずかに身を動かしただけで、その髪をかすめるに留まった。
「……でしょう、ね」
 二撃目を受ければ、警棒が折れる。折れたそれを彼女はがむしゃらに投げつける。
 首を動かすだけでそれをかわして、彼は軽く足を振りあげる。
 彼女は屈んでそれを避ける。
 けれど屈んで、そこまでだ。
 今度は、差しのべられる手はない。
 ないことを、彼女は悟っている。悟っているからこそ、どうしても―――なぜ、この人は。
「なんであの時、あんな馬鹿なことしてくれたの?」
 答える声はなく、蹴りが飛ぶ。
 身を縮める彼女は、ぐっと目をつぶった。


 軽いわけでもない身体は、無造作に宙に浮く。
 地面に落ちて、一度肩が跳ね、それきり動かない。

 ―――手加減はしたつもりだが。
 内心で呟いて、彼は動かぬ彼女へ歩く。
 手加減はしたつもりだ。篠塚巴の自宅へ向かっていたのが本人でないことが分かった以上、次の手を考えるべき。手がかりがあれば彼女へたどり着く時間を省略できる。仕事は早く終わった方がいい。―――他の雑事ならともかく、彼に与えられた仕事なのだから。
 この女が親友の居場所を知らずとも、この女に呼ばせれば。あちらが勝手に飛び込んでくるだろう。

 近づいてくる足音に、地に伏した女はぼんやりと顔を上げる。
 元々、分が悪い賭けだった。けれど、負けたというほどではない。
 狙われているのが彼女の命ならば、この術で殺されておけば誤魔化せた、かもしれない。けれど狙われているのが命だけではないなら―――中崎慧香に知りえぬ情報か。あるいは三鷹棗への報復か。とにもかくにも、どこかで成り代わりがばれてしまうくらいならば。
 ―――生きて、この人につれていかれるわけには、いかないから。
 顔をあげた彼女は、ほとんど力の入らない手をそっと懐にいれ―――ぼんやりと。ぼんやりと、口を開く。彼女自身に開くつもりなどなく、ただ、ぼんやりと動く。
 脳裏に浮かぶのは、いくつかの消せぬ後悔。
 親友を危険に巻き込んだあの日。生きてほしかった人が追い詰められていくのを画面越しに眺めた日々。一人残った男にかけた、無神経な言葉。気が狂いそうに後悔した、最後の言葉と、認めがたい感謝。
 ―――きっとあそこでこの人を信じられたとしても。こうなることに変わりはない。けれど、それでも……
「あの、と、き」
 呟くとともに、手の平が目当てのものへとたどり着く。冷たいナイフの柄に触れる。
「ご、めん…な…さ、い」
 唇からは漏れる、意図せぬままの後悔は。肉が潰れるような音に紛れた。


 なにかを呟いた女をとっさに蹴り上げた感覚に、朱雀野は小さく舌打ちする。
 もう動かない女が取り出そうとしていたのは、ナイフかなにかだろう。
 殆ど意識のない女が振るうナイフに、差し迫った脅威などあるわけもない。
 けれど身体は自動的に動き、最後の反抗を封じた。脈を確かめるが、案の定止まっている。なにかを呟いていた口が、その形のまま残っている。
 ―――まあ、いい。
 たいして時間をとられたわけでもない。あの事件のことを思いだせば、この女が頼りそうな先は知れている。
 この女にしろ、三鷹棗執心の彼女にしろ。一般人をなぶる趣味はないし、結果的に守ることだってある。
 しかし今回は趣味ではなく仕事。それも、なにを差し置いても優先される仕事である。

「なんであの時、なんざ。聞いてどうするつもりだったんだ、今更」

 興味なさげな呟きに答えるものは、既になく。
 下手な鼻歌だけが、夜の町に流れた。

 昨日ゆーなさんが書いてた即興小説こっそり読んでかっとしたので書いた。三鷹さん不憫で萌えるけど巴さんとばっちり極まりないね。みたいな。
 きっとあのIFのIF.のまたIFくらいっぽいイメージです。だってあっち一思いに殺しに来そうだし。

 朱雀野さんのファンブル力が発揮され人質とかにできたところで「でっていう」的な反応されそうだし勝つ手段が「同じぐらい厄い集団に頼る」くらいしかないよな。これも三鷹君のせいだ。としみじみして書いた。
 なにかあってそれに事前に気づけたらスキみて後ろからがっとしてぐっとしばって探偵組のところにおしつけ、いえ託して死ぬつもりで身代わりだよなあ。なにしろ化けられる呪文を持ってる。みたいなことを書きたくなって…
 でもなんとなく後ろからがっとする段階で失敗しそうだね。巴さん回避高いし。
 慧香さんがあのセッションで得たトラウマは「朱雀野さんの死」「自分を守るいって血は吸われるわ変な魔導書読むわな親友の姿」「なにもできないで死なせてしまった忍ちゃん」なので。なにもできずに親友失うくらいなら死んでもいいから生きてほしいにあっさりと傾くよなあ。狂気はすぐそこまで来てる系探索者。数値にしてSAN10くらい減るとだったかなあ。

 あと彼女は言うでしょう。巴さんがいるうちは決して言わないけれども。もしも一人の時に朱雀野さんに会っちまった日には「あなたの気が済むなら。望むなら」「殺されても仕方ないことをしたでしょ、私は」とか。彼女が抱いているのは恩義と恐怖心と後悔その他諸々、略してあるくトラウマ。



恋する男と邪魔したい女 IN大衆酒場

 それは、三鷹棗が例の探偵二人組に呼び出された数日後。
 同じ番号から呼び出されたのは、中崎慧香の自宅の近所にある居酒屋だった。
「…似合いませんね。こういうところ」
「そうか」
 注文した酒に手を伸ばす彼は、安物の厚いグラスがまず似合わない。
 飲みなれた酎ハイを一口飲んで、彼女は言う。
「笑えますね」
「笑っていないが」
「そりゃあ全然楽しい気持ちじゃないからでしょう」
 辺りに満ちるのは、耳をすますまでもなく、大勢の騒ぐ声。
 個室のふすまにさえぎられるそれを聞きながら、慧香は答える。
「井野さんと兆夜さんから聞きましたが、わざわざ事務所にきてくれたそうですね。今もそうですけど、あなた、変に律儀」
「…色々と思うところがあったからな。あの時も、今も」
「ふぅん。巴さんのこととか?」
 今ここにはいない―――今は旅行に行っているのを知っている親友のことを静かに呼んで、慧香は笑う。やけに穏やかに。膝の上で握ったこぶしを、カタカタと震わせながら。
「…三鷹さん」
「はい」
「人を数人ひきころした感想、『ボーリングみたいだな』な人をどう思いますか」
 思いだせばその光景は鮮明で、恐怖と嫌悪の対象だ。未だに全身が震える程度には。
 黙ったままの彼に、彼女は続ける。
「その後も数人蹴り殺した後、鼻歌歌って戻ってくる人をどう思いますか。
 ……朱雀野蓮というんですけどね、その人」
 三鷹の表情は変らない。―――驚いてはいないだろう、と慧香は思う。
「ああ、彼女はその一部始終、電話で聞いていたけど、見てはいませんよ。良かったですね。
 私も死ぬまで話す気はありません、詳細は」
 そして、親友の話題に触れれば、僅かに動いた表情が。この上なく煩わしいとも。
 胸にうずまく様々な感情を飲み込み、彼女は続ける。彼をここに呼び出した本題を、続ける。
「でもね、三鷹さん。…あなたは、その人が。…消息分からなくなったら、心配になる程度には、…大事な友人だったんでしょう?」
「大事と聞かれると語弊があるが。きっかけはそれだったな」
「そう。
 そのうえで、三鷹さん。あなた、ああして化け物みて。化け物に全然かなわなそうな私たち見て。…朱雀野さんの死の原因、分からないほどおめでたくないでしょう?」
 三鷹は答えない。表情も変えない。ただ、空気がほんの少し変わる。
 結局何を言いたいのかとでも言いたげに、僅かに息をつく。
「見ればわかったでしょうけど。もしかしたら四人の誰かまではしぼれないかな、って思って。だから言いにきたんです。
 私の所為です。一番最後まで逃げれなかったのは私です。だからあの人、一人で、最後まで残って、くれて。…最後まで残ったのは誰のせいだと、そんなことを言うあの人に、私、…最後に、ひどい、こと、を。あなたが人を助けるとか信じられるわけないとか、確か、そんなこを」
 喘ぐように、溺れるように。吐き出す彼女は気づかない。
 彼の唇が小さく紡いだ『聞いていないのか』の一言を。
 朱雀野連の生存を、彼が彼女に語る義理はない。義理もないし―――篠塚巴が伏せているなら、言えば顰蹙を買いそうだ。
 一瞬で結論を下した彼は、うつむく女を見る。
 肩を震わせ蒼い顔をする女は、単なる一般人だ。
 けれど、その単なる一般人の瞳は暗い。顔を上げ彼を見る彼女の瞳は、例えるならば、そう。彼の裏の仕事でしばし目にする瞳。死を前にしたもの達とよく似た色。
「あなた、私を殺したいとか思いませんか?」
「思うところがなかったとは言わんが…なんだ。思ってほしいのか?」
「いいえ。ただ私があなたの立場ならそう思うだけ」
 諦めや絶望と、同量の生への執着。己や近しいものの死に怯える、そんな目で。
 慧香は笑って、彼を見つめる。
「あなたのせいで彼女が危うい目にあったら。自分が死ぬことになっても、あなたを殺したいと。きっと今の私はそう思ってしまうんでしょうね。…井野さん達の話聞いてると、あなたの元に辿りつくこともできなそうですけど」
「…篠塚さんが嘆きそうな話だな」
「ええ。だからしません。彼女が嘆いてくれているうちは、そんなこと。絶対」
 カラン、と溶けた氷が音を立てる。
 飲まないまま冷めていく酒をちらと見て、三鷹は静かに告げる。
「…私の今の最大の弱みは篠塚さんだと。そう教えただろう」
「そうですね。迷惑な」
「その親友である君も庇護対象に入る」
「……は? やめてくださいよ。嫌いな相手に守られるなんて、二度とごめん」
 第一、と強く言って、慧香は続ける。
「なにがあっても。誰が一緒でも。彼女を優先してくださいよ。なにかがあってしまったら」
「そうか」
「ええ。だって。もう、どうでもいいんです。あの時私たちを守ったのは結局朱雀野さんでした。
 彼女を死なせたのは、悪い人でも化け物出もなく、単なる人だった。
 …ならもういいわよ。世間一般なんて。彼女に比べたら。
 あなたがいなくなってくれるのが、私には一番都合いいけど。なにかの間違いで縁が続いてしまたら、そうしてくださいよ」
「…なんだ。君にそんなことを言われるほど脈があるのか」
「はは。おめでたいですね。童貞、いや素人童貞? どうでもいいけど」
「女性が口にする言葉じゃないんじゃないか」
「反応が初恋の男子っぽくて気味悪いって話ですよ」
 ―――たぶん、ともちゃん、そういうの弱いけど。
 誰にも言えぬ苦さをかみしめ、慧香はぬるい酒を飲み込む。
 苦い酒は喉を焼いて、じわじわと腹の中へと落ちていった。

SAN値と一緒に「大衆への信頼」を2週間でごっそり落とした慧香さんは割ともう「周りが無事ならそれでいい…」になったというお話。探索者向けの性格にはなった。
お二人が甘酸っぱければ甘酸っぱくなるほど彼女は言わないまま神妙な面になる。最終的には「ともちゃんが幸せなら別にいいんだけど」に落ち着きますがね。あというほど病んでないよ。今のところはまだ。もしもの話ですからね、色々と。

喧嘩するほど仲がいいなんてことはない。ないない。

 二人の前に、皿がある。
 大きくふっくらと焼き上げられたたこ焼きだ。
 いかにも大衆酒場に似合いなたこやき。
 しかし、そのうち一つに激辛がある。よくあるロシアンルーレットだ。

「…なんだこれは」
「巴さんが好きなものですが何か」
「嘘だろう? どう考えても」
「嘘ですとも。あからさまに」
「……嫌がらせか?」
「さあ? 自分でもよくわかんない。
 そもそもここに来たの初めてですよ。個室あるしうるさいし。目立たなくていいかな、って。
 彼女の好きなもの嫌いなものそうでもないこと。すべてあなたに教えたくないですし」
「……」
「なんですか、その顔」
「……いや、なに。ここまでいくと、これが微笑ましいというものかと思っていた」
「ふふ。馬鹿にするな畜生」
「君、会った時よりガラが悪くなっていくな」
「誰のせいだと」

 みたいなことはIFじゃなくやっていると思います。子供っぽい嫌がらせ未満。
 仲良しにみえる、わけもない。


中崎慧香は繰り返す

「あの人のことなんて大嫌いです」
「……」
「やることなすこと皮肉っぽかったというか。馬鹿にされている気がしたというか。子供っぽいくせに人を馬鹿にして。なんですか人のこと友情劇だか友情ごっこだかと馬鹿にしたくせに。…自分は正義の味方ごっこですか」
「……」
「嫌いです。今も」
「……」
「でも死んで欲しくなかった。死んだら悲しかった。だからあの子も許せなかった。…申し訳なかった。あんなこと言わなきゃ良かった。…謝りたかった。謝りたい」
「……」
「…大嫌いで、怖くて。でも。死んで欲しくなくて。朱雀野さんも、他にも…誰だって。私、死んで欲しくなくて」
「……」
「ごめんなさい。……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「……私にそんなことを言われてもな」
「知ってる」

 まあ、SANがごりっと減っているので。
 どうでもいい相手の前で泥酔とかするとうっかりとこういうこと言っているかもしれませんね。言わないかもしれないけど。
 あるかもしれないもしもの話。生きてほしかったのと謝りたいのは本当の話。そして大事な相手の前では気を遣うので言わない。探偵組も言わない枠。
 実際再会したら謝れるかどうか微妙でしょうけどね。色々な意味で。


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