逆説的に敬虔

 あらあら、おかしな顔。
 そう、神を信じるものが金を集めるのはおかしいの?
 真面目ですねえ。しかし、信仰を広げるには教会が必要でしょう?
 まことに神の教えを信じるなら、あればあるほど便利だと、そう思うんですけど。

 ふふ、そうですね。私は別に教会をたてるために金を集めているわけじゃありませんが。

 そうですねぇ。金を集める理由ですか。
 遠くにいきたいからですね。

 いえ、遠くなくてもいいんです。
 目的を達成するまで、私は旅を終えられない。
 だから金が要る。
 単純な話です、単純な話。ただそれだけの話です。

 生まれ?
 ああ、実はこの大陸じゃあありません。
 ここにきたキッカケは、なんだったでしょうね。もう忘れてしまいました。
 ただ、両親が助けてくれたおかげで私だけ生き延びたのは覚えていますよ。

 それに、ねえ。流れ着いてからの方が印象深いことがたくさんあったもので。
 忘れてしまいましたよ。とても面白いことが、たくさんあったから。

 友人ができました。
 色々あって放浪の日々でしたからね、新鮮でしたよ。

 …友人を通じて、一人の男と知り合いました。

 口数の少ない、行動で示す男でした。
 なんでも器用にこなすくせに、生き方が不器用な男でした。
 それに、神を信じていましたね。その力を信じ、町のためにこぶしをふるう。
 そういう冒険者でしたよ。

 ええ、器用な男でしたよ、野に咲く花で花束なんて作れる程度に。
 いや、あれは王冠でしたね。
 …王冠、いえ、ティアラですか。

 …花嫁がベールをかぶるでしょう?

 あれは魔除けのためでしょう。嫁ぐ花嫁を悪しきものから守るため。
 ロマンチックですね。ただの布にそんな効力は―――…ふ、ふふ。冗談ですよ。神官がそんなことをいうわけ、ないでしょう?

 そう、冗談。
 だってこの話を思い出すと、おかしくなってしまうんですよ。

 大の男が、草冠を編んで。
 大の男が、そのあたりの布をとってきて。

 祝福だ、と。

 ……私が欲しかったのは別のベールなのですけどね。
 その時お金が足りなくて、買えない。そういう話をしていただけなんですよ。

 でも、祝福だ、と。

 あげるから帰ってこいと、そんな風に言われました。

 …おかしなこと。
 本当に、おかしなこと。

 私も、あの男も。
 そんなものに効力がないのを知っているのに、あの時笑えたんですから。
 …そもそも、私と彼は奉ずる神が違いましたし。対象外だったんじゃないでしょうか。あの男の神からしてみれば。

 ………。
 …ああ、その男ですか?

 今はいません、死にました。首をきられて、持ち去られて。ぐしゃぐしゃに砕かれた肉の破片と、骨のいくつかと。そう、目だけが残ってた。
 犯人は知りません。ただ、どうにも――――くだんの友人だという情報が、ありましたね。
 確かめていないので、わかりませんが。
 確かめるために、探しています。

 ええ、だから。
 だから私はかの友を見つけるまでこの旅を終えられない。

 …あら、おかしなことを聞きますね。
 つらくなんてありませんよ。

 だってほら、神は見ていらっしゃいますので。
 ―――敬遠な信者一人、守らなかった無能な神が。

 私、心から神を信じているんですよ。

 次から次へと理不尽なことばかりが起きた。
 私の大切にしたかったものは次々にいなくなる。
 …こんなこと、誰かの意思がなきゃありえないでしょう?
 誰からの試練じゃなきゃ納得できない。偶然なんて認めない。この身に浮き上がるアレは運命なのだと、そう思わなければ―――
 私、神様ではないものを恨んでしまう。

 あの男と二度と巡り合えない道に行ってしまう。
 人族から背を向けてしまう。
 だから―――だから、私は。わが身にふりかかるすべてを、なにかからの試練と受け止めましょう。

 …ああ、本当におかしな顔。
 お仲間がこないのがそんなに不思議ですか?
 お仲間をかたずけてからじゃなきゃ、こんな無駄な話するわけないでしょうに。

 本当に―――そんな顔をしている場合ですか?

 今から私に殺されるんですから、少しはこびてみてくださいよ。
 そんな化け物でも見るみたいに、ねぇ?

 とある敬虔な神官(賞金首)と迷宮キャンペーンはじまるちょっと前のクレーベルさん。
 ある時彼氏があんでくれたのがシロツメクサっぽい(ソドワでは名前がちがいそうだけど)冠だから彼女はクレーベルです。
 神はいますよ。ヒトに試練を与え、苦難の道を歩ませる神がどこかに。名前も知らぬ、そんな大きな神様がどこかに。
 そうですね。私が奉ずるかの炎帝は、私の味方ならばよいとくらいは、思いますけどね。
 みたいな方向にクレーベルは敬虔です。
 敬虔に神を憎んでる。