マリンスポーツの類。
 確実に喜んでくれるだろうが、流れるように一条さんと濱崎さんが出てきた(脳内に)。
 ならば水族館。
 確かイルカが好きだと言っていたが、やはり一条さ以下略。
 ……海心さんの好きそうなところは、大概四人で行けそうなところである。
 なんかこう、あの笑顔で言われたら二人で行きたいとは言えない。でも確実に言われる「じゃあみんなにも声をかけようね」って。
 想像の中の海心さんは実に可愛かった。
 ……可愛いから、その。ああ、もう。

古市数良は奮闘する

「…ということで悩んでいるんだ」
「リア充果てろ」
 素直な気持ちを言ってみたら、素直っぽい感想がかえってきた。
 …いやまあ、俺も逆の立場ならそう思う気はするんだが。だが。しかし。なんというかさあ!
「なれてねえよそんなもん!!」
「今の話にリア充じゃない要素があったのかよ!」
「…っ、へこむんだぞ! その、……気に…気になってる女性誘って他の誘われるの! 『ああ二人きりはダメかぁ』って!」
「そのまま玉砕しろよ!」
「ああこの間それ言われた時はこのまま秘めていようとおもったね! その時一緒に鍋食うことになってかっこつけて土鍋持ったら火傷した俺を心配してめちゃくちゃ世話焼いてくれるような人じゃなければ!!」
「女神かよ!」
「割と女神だよ!」
 同僚に向けて叫ぶと、同情の目で見られた。
「………で。俺に何を頼みたいの、古市」
「お前カノジョいるじゃん。急募:可愛い女性を喜ばせるデート先」
 そして、訊いてみると友人の顔色が変わる。すごく、死にそうな感じに。
「そうだなぁ…お前のような甘酸っぱいところはすぎさった、デートとか最近全然行ってない彼女がいるな…」
「…そうか」
「というか、うちの会社がクソなせいで、デートいけない…」
「そうだよな…」
「……お前が俺の代わりに次の休日出てくれるなら手配するけど。遊園地のチケット。相談も乗ってやるよ?色々」
「…やっぱり…そうなるんだな…?」
「…いうて、そうなると思ってただろ」
「友情で…無償でやってくれないかと思ってたよ…?」
「友情はギブアンドテイクだ」
「…分かったよ」
 頷けば、すっかりしょげた顔してた友人が笑う。
 なんというか、実に幸せそうな顔だった。
 …羨ましいと、心底思った。

***

 ―――それで手配してくれたのが絶叫ハードってなんのつもりだあいつ。
 いいところを見せろという意味だろうか。
 そういうことなのかもしれない。
 だとしたら、それは俺にはすぎたことだったようだ、友よ。
 …………。
 …友と、今の俺をあいつはそう呼んでくれるだろうか。
 海心さんも……本当は。
 本当を知ったら、どんな反応をするのだろうか。
 俺が、昨日できあがったばかりのクローンと聞いたら、どうするんだろうか。
 記憶も、性格も、思いもすべて。俺ではあるけど。…だけど、オリジナルはあちらだ。
 ジェットコースターでばてた俺に、なにか冷たいものを買ってくるね、と言ってくれた声を思い出す。
 1人彼女を待つ時間に、乗り物酔いと違う吐き気を覚えた。

***
 彼女はどちらも俺だと言ってくれた。
 心から嬉しくて、だから、続く言葉も分かってしまった。

 どちらも助けようとする彼女が、俺の好きになった人だった、

***

 軽々と俺を担ぐ彼女に、思わず『今後は鍛える』なんていってしまった。
 …今後、なんて。
 俺にはないのに。
 それがあるのは、あちらの俺なのに。
 ……でも、いいか。
 先ほどの「おまじない」の感触を思い出す。
 命をかける報酬としては、あまりに十分だ。

 別に、そんなものがなくとも。俺が三日しか持たないなら、こうするのがちょうどいい。

 だって、ダメだ。
 こんな思いをする人が増え続けるのは、ダメだ。

 こんな思いをするのが、次も海心さんの友人かもしれない。もっと大事な人かもしれない。
 それは―――ダメだ。

 落ち着いてしまえば…あんなにも思いやりある人の傍にいると、どうしても考えてしまう。自分勝手ではいられない。
 海心さんだけじゃない。
 次にこういうことに巻き込まれるのは、他の友人かもしれない。俺の大事な人かもしれない。
 ならやっぱり……ダメだ。

 死にたくはない。
 殺したくもない。
 そんなことより、共に出ていきたかった。
 俺の時間が残りわずかでも、彼女は本当に一緒にいてくれるんだろうから。

 それは、どんなに穏やかだろう。
 間に俺がいるというのは色々と複雑だし、あちらもさぞや複雑だろうが。どんなにか、穏やかか。

 想像するだけで幸せになるから…想像するだけで、いいや。

 今日、全然かっこよいところ、見せられなかったからなぁ。
 そのくらい、恰好をつけたい。
 かっこつけたいし…俺にも、かっこいい所、残してやろう。
 よほど言ってやろうかと思ったんだけどな。…今日誘ったの、そのためにだったんだけどな。

「……というか、ほぼ、言ったつもりだったんだけど」
 あの反応はないだろう、…まったくもう、……かわいいったらない。
 しっかりしてるのにな。頼れる人なのにな。なのになんでああなのか。…ああ、本当に。……本当に、本当に。言葉が出てこない。

 どうやら俺の恋は、いまだに難航しそうだ。
 けれどまあ、いいだろう。
 俺は、きっと。これから先も彼女と、そして彼らといれる。
 ならばあんな痛みも、悪いものじゃない。きっと。

 アイディア85で86失敗美味しすぎですよね。実にいい、青春でした。あとおまじないは「あこれは古市死ぬ。覚悟しか決めない。愛する」て思いましたね!
 可愛くて幸せでした。古一君も幸せだと思いますよ!どっちも。
 2018/02/01
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