瞳のあるあたりに、白い包帯の巻かれた顔を見ている。
 実のところ、こうなる前のこの少女の顔を、僕はよく覚えていない。
 目に焼き付くのは、ただただ。
 救えなかった友の、おぼろげな面影ばかりだ。

虚ろな日々

 学校に通う。講義を受ける。
 寮に帰る。仕事があればさせてもらい。たまに友と語りあうこともある。そうして、薄い布団の上で眠りに落ちる。
 それが自分の毎日だった。
 それが変わったのは、ほんの先日。
 学校に通い講義を受け寮に帰り稼げるだけ金を稼いで―――そうして。
 時間を作って、病院に行く。

 ―――とはいえ、こうして病院に通っても、できることなどなにもないのだ。医学の心得もないのだから、本当に何一つない。
 今日は比較的穏やかに眠る彼女を見つめる。
 瞳のある辺りに白い包帯が巻かれた、端正な顔。
 ……年頃の娘の顔をこうしてまじまじとみているなど、失礼だ。
 ……いや。それを言うならば。何の縁もない僕が、こうして足を運ぶのも、痛くない腹を探られかねないが。
 それでも、ここにきてしまう。
 ひやりと冷えた空気と、清潔な匂いに満ちたここに。
 彼女が一人でいることを想像すると、胸のどこかがひどく痛むから。
 ……否。それも違う。
 彼女が一人でここにいることを想像すれば、自然と思いだす。
 あの座敷牢で、たった一人。彼はどんな気持ちだったかと。
 ……何かを考えることなどできない状態だったのかもしれないが。どうしても。
 日に日に細部が思いだせなく彼と、目の前の少女が混ざり合う。
 こうして眺めていても、僕は彼女の顔を、その瞳があった時の顔を思い出せない。
 妙齢の女性の顔など、まじまじと見つめるものではない上に、彼女と話した時、僕は別のことを考えていた。
 彼の行方と、星林の素行ばかりを気にしていた。
 …関心が、なかった。
 けれど、あれほど気にしていた彼の―――三好君のことも、良く思いだせないのだ。
 思いだすのは、あのおぞましい姿。
 歪に麗しく作り上げられた、妹の瞳がはめこまれた、彼の遺骸だ。
 ……否。否。否。
 遺骸はあのように動かない。
 あのように、あのようなことなど。ありえない。
 けれど事実彼はああして。
 やっとの思いで後日訪ねどあの老女も彼もおらず。
 なにも、なにも、分からない。
 自分は何もわからず。自分は何もできず。僕は、生き残った。
 彼も彼女も、守ることはできぬまま。
 そもそも、守るなど思いあがったのが過ちか? なにかできると、そう思っていたからか?
 僕は、なにかを、間違った?
 ―――ああ。やはり何もわからない。
 なによりも……もう、どうでもいい。
 もう、今更。できることは、なにもないから。
 ……けれど。

「どうか」
 名前さえうまく呼べぬ彼女に、静かに囁く。
「……あなただけは、また、笑ってください」
 僕は彼女の笑い顔など、見たこともない気もするけれど。
 見ることができれば、少しは。
 彼の顔を思いだすことも、できるような気がするんだ。

 あの後めっちゃ後悔していそうな井ノ原さん。は正直どうでもいいが美沙子さんにはせめて元気に生きてほしいものです…
 もっとからみたかった…暇がなかったけど…いっそデレデレすればよかった!
 2016/09/25
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